また別の日のこと。
その日はたまたま『外回り』先のアポが取れず、非番となっていた。世界警察としての仕事に戻るポポムとは違い、久しぶりの完全フリーの休日である。
この日、俺はとある人物に会うため、珍しくプクランド大陸のオルフェアの町を訪れた。
愛くるしい毛玉(プクリポ)どもの住む大陸らしく、町中がお菓子をモチーフにしたモニュメントに溢れている。正直なところ、こういうポップな世界観に包まれるのがなんとなく苦手で、普段はプクランド大陸に近づかないのだが、用がある場合は仕方ない。自分のひざ元くらいの身長しかない住人たちを蹴り飛ばさないよう、最新の注意を払って街道を歩いた。
地面を掘り抜いて作られた遊歩道を下り、地下の繫華街を進む。その一角にある酒場が会合の場所だった。目立たない裏路地にあるせいで集客が悪い店だが、その分外面の悪い話も気兼ねなくできるということで、俺たちのようなチンピラには人気のある場所だった。
その日の酒場もほとんど客がおらず、プクリポのマスターがカウンターで黙々とコップを磨いていた。そんな中、先客が一人テーブルに座り、にこやかに俺を出迎えた。
「よう、しばらくぶり!俺様と会えなくて寂しくなかったか?」
「寂しくなるほど時間経ってねえだろ」
「ふぁはっはっは!違いねえ!」
真っ黒いプクリポ、化け狸・ポッタルはでかい口を開けて笑った。
陽気なプクリポの軽口は、数日前に知り合ったときとあまり変わっていないように思う――が、その目は警戒するように細められていた。
チンピラ同士、知り合いであってもなかなか腹を割らないのは、裏社会に属する者にとっては普通のことだ。俺も油断なく睨み返し、腰が痛くなるくらい背の低い椅子に座った。
「アジトの引っ越しは済んだのか?」
俺は世間話から始めることにした。化け狸も席に座って、テーブルに置かれた梅酒をクイッと飲んだ。
「済みましたとも。ここウン年住み続けた島を捨て、泣く泣く実家に帰省してやりましたとも。ああ、ビッグになって帰ってくると大口叩いた手前の帰省は恥ずかしゅうて恥ずかしゅうて……」
ヨヨヨとウソ泣きをするしぐさをする狸。こいつの所作はいちいち胡散臭くて、言ってることも本気なのかわからん。この辺は話半分に聞いておくべきだろう。
「見られて困る荷物はあったのかよ?盗人商売なんぞ、ご両親に顔向けできるもんじゃねえだろ」
「いやあ~、お子様の荷物を勝手に見るようなスレた親じゃあござんせんから。そこは心配ご無用」
「そうかい」
あの日――オールドレンドア島の戦場には、裏クエスト屋とともに化け狸が同行していた。
あとで聞いたところによると、化け狸は以前からオールドレンドア島にアジトを構え、あちこちで盗んできたあれこれをコレクションしていたらしい。金目のものを眺めてホクホクする生活もつかの間、知らぬうちに呪術王があの島に潜伏し、島を丸ごとリフォームした結果、化け狸のアジトまで飲み込まれたのである。コレクションの中でも重要なもののみ持ち出し、ほうほうの体で逃げ回る先で、キリンを付け狙う裏クエスト屋に保護されたわけだ。
店主との交渉において、裏クエスト屋の契約書を持ち出していたのも、俺との後々の交渉で優位に立つために盗んたのだという。将来の商売敵との交渉を見越して、先手を打って行動に移すという辺りは見事な手際だと思う――いちいち嫌味っぽさを感じるが。
まあ、そこはいい。聞きたいことは別にある。
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