「……あっ……おい、まさか磯野郎まで、お前の同類とか言うんじゃないだろうな!!?」
脳裏に煌めいた最悪の可能性に思い至って俺は戦慄したが、化け狸は首を振って否定した。
「あいつはさすがに部外者だ。あの予想もつかない動きをする無軌道とつげきうおが、そんな緻密な作戦行動を取れるわけねーだろ」
「それは……そうなんだけどぉ……」
もうちょっと配慮した言い方があるんじゃないの。いや、阿保ってストレートに言わないだけ良心的か。
「ただ、あいつが島にいたのは、あのヒトの仕込みの結果だ」
「……ッ!?」
「覚えてるか?あの島にいたとき、あいつが口走ってたこと」
声を潜める化け狸に促されて、俺はオールドレンドア島での磯野郎――怪盗もどき・エバンが言っていたことを思い出した。
『……ここに住んでた前の恋人が、見つからないんだ。多分、もう……』
「……おい、それ、まさか」
俺は愕然として、目を伏して首を振る化け狸を見た。
「あいつ、オールドレンドアの地下街に潜伏してたホームレスの女と以前、懇意にしてたらしくてな。あのヒトがその女の手紙を偽造して、逢引きを口実にエバンを呼び寄せたんだ。あいつもあんたの味方(戦力)になると考えたんだろうな。
いざ島に着いてみたらあの物々しい戦場、元恋人の身を案じて地下に潜ったものの、そこは生きたレンガがうごめく阿鼻叫喚と化していた……」
「そ、その女のヒトは無事なのか?」
「もう何年も前に島から去ってるよ。あいつは現地にいもしなかった元恋人のために、いわれのない敵討ちをしようとしてたんだよ」
化け狸は沈痛な面持ちで語った。俺も額に手を当てて、テーブルにもたれかかった。どういう気持ちで受け止めればいいかわからなかった。
偽の手紙で島におびき寄せられ、その先で重傷を負い、なんの関係もない呪術王に戦いを挑んだ……はたから見れば笑ってしまいそうな無軌道っぷりだが、内実がわかってしまうととても笑えない。
その全ての行動が、キリンに騙されたことから始まっているのだから、あまりの申し訳なさに突っ伏してしまいそうになる。オールドレンドア島における出来事で、エバンが一番のとばっちりを受けていたと断言できた。
そこまでするやつがあるか、とキリンに詰め寄りたかった。いくら俺を助けるためといったって、ここまで無関係のやつを巻き込んでしまってはいたたまれなくなってくる。
「……なんか、お前の歯切れが悪かった理由がわかった気がする。処置に困ってたんだな、お前」
「……ん、まあな。仕掛けた側の身内として、ボスが相当現場を引っ掻き回してると知ってると、どういう顔をして動けばいいか、かなり迷った」
まったく精進が足りないぜ、と化け狸は自嘲気味に笑った。
「と、まあ、こんなところだ。天上天下唯我独尊を志す俺様が、実際は誰かの命令を受けて右往左往するに過ぎないなんてヒトに知られては形無しだな。あんたは特に怒ってくれても仕方ない」
「……いいよ、お前も苦労してたってことはわかった」
ぺこ、と素直に頭を下げる化け狸に、俺はため息交じりに頭を上げるよう言った。怒りたいことはあるが、色々な疑問に真摯に答えてくれたことに免じて許してやった。
その代わりといってはなんだが、俺は化け狸に新たに聞きたいことができていた。
「狸、キリンの行方を知らねえか?あいつにゃ色々問い詰めたいことがあんのに、どこを探しても見つからないんだ」
「……悪い、わからん。俺様の方も、オールドレンドアから帰って以降、連絡がつかねえんだ」
「そうか……あんまり期待はしてなかったが、お前でもダメか」
俺はため息をついて、イライラしながらこめかみを押さえた。
密に接触していた化け狸とも連絡を絶ったとなると、いよいよキリンの行方を知る手がかりがなくなってしまった。
まさか、本当に雲隠れするつもりなのか……?焦りから、ギリリと歯ぎしりしてしまった。
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