その様子を見た化け狸が、不審そうに話しかけてきた。
「なあ、あんたとあのヒト、どういう関係なんだ?」
「……逆に聞きたいんだけど、お前はどこまで知ってんだ?」
「何も。あのヒト、命令を出すばっかで、身の上の類は全く話さねんだ。だから、あのヒトがあんたにあそこまで執着する理由がさっぱりわからん」
化け狸は首をかしげながら言った。なんかポポムも同じようなことを言っていた気がする。キリンのやつ、自分に関することは本当に誰にも言ってないんだ。
「そんなん、俺が聞きたいくらいだよ……お前の方こそ、なにか見当つかないのか?普段の印象から推測もつかないのかよ?」
「わからんから聞いてる。あんたの方がちゃんとあのヒトと喋ってると思うぞ」
化け狸と出口のない押し問答を繰り返してしまったが、俺にもわからんものはわからん。お互いにうーんと唸って、黙りこくってしまった。
沈黙に耐えかねて、俺は別の話題を口にした。
「そういや、お前はあのヒトとどうやって知り合ったんだ?」
俺の質問に、化け狸は遠い目をしながら、重々しく口を開いた。
「面白そうなヒトだなと思って、自分から近づいたんだ……恐ろしいヒトだった……」
「……お、おう。自業自得だな……」
「真面目に言うと……詳細は省くが、当時の俺は泥棒としてのスキルアップを図るため、都市伝説の魔法使いたるキリンに師事したいと思って、居どころを探してたんだ。
うまいこと居場所を突き留めたら、逆にあのヒトに捕まって、あれよあれよと取引するうち、顎でいいように使われる立場になったって感じだ。
……今思えば、あのヒトはちょうど手足になるやつを探してたのかもしれねえ。それでわざと手がかりを残してたんだ。本気で隠れようとしたら、俺様でも面会は叶わなかっただろうよ」
「……」
「そういう魔法使いだ。あのヒトの一番の武器は、魔法でも頭脳でもなく、目的を達するための冷酷性だと俺様は思う。あのヒトが本気になったら、どんな戦士も策略家も敵わないだろうよ。
ただな……あのヒトは、虫を殺すようにヒトを殺す、恐ろしいヒトだ――ってのが、今までの俺様の印象なんだが。最近、どうも違うような気がしてきた」
しゃべっていて頭が整理されたのか、化け狸は口に手を当てながら考え込んだ。
「……それは、なんでだ?」
「他ならぬあんたのことだ。あんたに関することとなると、あのヒトの行動がぶれっぶれになるんだ。まるでくしゃみをして羽ペンの筆跡がぶれるかのように、計画がずさんになる……あのヒトの命令が行き当たりばったりのように感じたのは、俺様にとって初めてのことだ。
オールドレンドア島の作戦だって、あれ俺様かなりアドリブ入れたんだぜ。他の場面だったら、あんな無茶ぶりはまずしてこなかった。もっと綿密に指示出ししてるような場面でも、あのヒトは何も指示してこなかった。というか、指示する余裕もなかったはずだ。手下の手前でドラゴンにぶん殴られるようなヘマは、初めて見た」
「……」
「あんた、あのヒトの唯一の泣きどころかもしれねえぞ。
俺様はこれ以上、面倒事を抱えたくないから、深くは聞かねえけど……そういう関係があるって周囲に知られたら、『よくないこと』が起こるかもしれねえ。気を付けろよ」
化け狸は心からの忠告を送ってくれた。言わんとすることは俺もわかる。余計な弱みが漏れたら、裏社会によくある恨み嫉みに巻き込まれるってことだ。肝に命じておいた。
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