2年か…長いようで短かったな…
また少し、思い出話しちゃおっかなぁ。
あゆっちょがドラクエにどっぷりはまっていた小学校5年生の頃、いとこにフリーのSEをやっているにーちゃんがいて、年に数回顔をあわせていた。
当時は自宅にPCがある家庭なんてほとんどなくて、一般人のコンピュータに対する知識も乏しく、にーちゃんのSEっていう職業も、親戚間では『怪しいオタクの自営業』というかわいそうな扱いをされていた。
親戚からは「あんな風になってはいけない、ちゃんとした勤め人にならないと」とことあるごとに言われたけれど、あゆっちょはよく遊んでくれるそのにーちゃんが好きだった。
親戚が集っていたある日、酔っぱらったにーちゃんがあゆっちょの部屋にやってきた。
たぶん、親戚からつまはじきにされて逃げてきたのだろう。
にーちゃん『元気かー?最近なにして遊んでるー?』
あゆっちょ「んっと、みんなでドラクエやってる」
『おー!いいなー!おもしろいべーw』
「うん、友達いっぱいできた」
にーちゃんはいつも通り、あゆっちょの話を茶化しながら、長いこと聞いてくれた。
ひとしきり喋って話題も一段落した頃、にーちゃんがこう言った。
『なんでちからの最大値が255なのか知ってるか?』
「??わかんない」
『いいか、ファミコンっていうのは0と1の数字だけで動いてて…』
酔っぱらったにーちゃんは、そこから延々とコンピュータの動き方についての解説をはじめた。
2進数の話、ビットやバイト、光の三原色、解像度、R音源、プログラム…
もうほんと、何から何までw
さらに発展して、テレビがなぜ映るのか?電話はなぜ聞こえるのか?カセットテープにはなぜ録音できるのか?などなど。
軽く4~5時間は話していたと思う。
にーちゃんの話は全部、あゆっちょにとってものすごく刺激的な内容だった。
世界の便利なもの全てが電気で動いているということ。
それを0と1という二つの数字だけで制御できること。
(当時のテレビなんかはアナログだからそうじゃないけど)
あの複雑そうに見えるドラクエでさえも根っこは0と1、電圧が高いか低いかだけの構造なのだ。
これを知った時の衝撃をなんと表現したらいいのだろう。
いつもやってるドラクエが、0と1だけで書かれたプログラムでできているなんて!
それを読めるのは、0Vと5Vを判断する無数のスイッチだけ!
世の中は電気が支配しているのだ!
電気とプログラムのことがわかれば、ドラクエを作ることさえできるのだ!
世界の仕組みを知った気がした。
その日は興奮して眠れなかった。
次の日、親戚全員に「テレビはどうして映るの?」「電話はどうして聞こえるの?」と質問してみた。
誰一人、答えられる人はいなかった。
あゆっちょとにーちゃんだけが、世界の仕組みを知っている!
あゆっちょとにーちゃんだけが、特別な人間なんだ!
あゆっちょはずっと、勉強だけはやたらとできた。
IQもずば抜けて高く、子供の頃は何度もしかるべき場所で再検査をされた。
(15歳くらいであっさり普通レベルに下がったけどw)
そのかわりに運動や音楽なんかは全然できなくて、母親からは常に「あんたは勉強ばっかり!もっと運動しなさい!」と叱られ続けていた。
でも、あゆっちょが得意なのは勉強なんだ。
算数や理科なんだ。
これじゃダメなのかな?
あゆっちょはダメな子なのかな?
そんなふうに悩んでいた時に、にーちゃんのこの話。
『にーちゃんはその気になれば、ドラクエだって作れるぞー』
「にーちゃんみたいになりたい!」心からそう思った。
にーちゃんが帰る日、こう聞いてみた。
「ドラクエを作ってみたい。どうしたらいい?」
『んー?いっぱい勉強して大学行けー』
「勉強、頑張ってればいい?」
『おお、もちろんだ!おまえ、頭いいからなぁ。勉強できるってのはすげーことだぞ!偉いことだぞ!』
そうか。
勉強できるって、いいことなんだ。
あゆっちょ、すごい子なんだ!
このカタルシス。
初めて人生にくっきりとした目標ができた。
『いっぱい勉強して大学に行って、ドラクエを作れる人になる』
もう母親の説教に耳を貸すことはなくなった。
あゆっちょは、あゆっちょのやりたいようにやる。
大人になったら、プログラマになる!
それから何年もたって。
あゆっちょは四年制大学の情報工学科に合格しプログラマになった。
事情があって長くは続けられなかったけど、仕事は本当に楽しくて、なれて良かったと思った。
にーちゃんに「プログラマになったよ!」と報告した時、『マジかよ、女の子のやる仕事じゃねーぞー』と言われたけど、にーちゃんはちょっと嬉しそうだったと思う。
ドラクエのために、進路まで決めてしまった少女のお話でしたw
人生いろいろ。