沈黙の玉座に、骨の音が響く。
ギィ……ギィ……と、誰かの歩みが闇の広間に刻まれていた。
高くそびえる黒き玉座。その背に絡みつくは無数の骨
砕け、軋み、積み重なった骸の王座。
その中央に、何者かが座していた。
目を開けてはならぬ。
声を発してはならぬ。
その姿を、語ってはならぬ。
それが“王”の掟。
名を語られることもなく、魔王はただ――
「喰らう」のみで、万物を支配していた。
玉座の間には、魔王の二人の眷属が跪いている。
一人は白金の仮面をつけ、漆黒の法衣を身に纏う、誰もその素顔を知らない男。
その名はハーゼル。王の側近にして参謀。
もう一人は、骨を宝石のように散りばめた着物を身にまとい、体から冷気を発する冷酷無慈悲な女、その名はクラウナ。
「赫翼のルーガ……討たれました」
ハーゼルが低く、厳かに告げた。
玉座は動かない。王の気配も、言葉もない。
だが、確かに“何か”があった。
空気が……震えたのだ。
「リク、セリア、そして……震天の槌の継承者バロム」
クラウナが、唇をつり上げる。
「三闘士の名を継ぐ者たちが、揃い始めたわ。ルーガは見誤ったのよ。
あれはただのドワーフじゃない。選ばれし、“光の継承者たち”」
言葉とは裏腹に、クラウナの指先がふるふると小刻みに震える。
彼女の胸に渦巻くのは、冷酷な使命感ではなかった。
――セリア。
あの気高く、愚かで、誰よりも愛しい存在。
脳裏に浮かぶその姿に、クラウナは怪しい笑みを浮かべる。
「……私が、壊してあげる」
誰にも聞こえない声で、クラウナは呟いた。
誇りも、理知も、優しさも――全部、砕き尽くして、その心ごと抱き締めるために。
ハーゼルは黙したまま、玉座の下へ頭を垂れる。
「――ご命令を。次なる“災厄”をお与えください、我が王よ」
「……ハーゼル」
それは声だった。骨の奥底から響くような、古の咆哮にも似た声。
「汝に、選別を命ず。次なる使徒――血哭のゾルグを目覚めさせよ」
ハーゼルの指が、わずかに震えた。
「……畏まりました。我が王」
「クラウナ」
「……はい」
「光の継承者たちに影を落とせ。
その前に、見せねばならぬ。“正しき恐怖”というものを」
クラウナは微笑み、ゆっくりと首を垂れた。
「ふふ……ええ、ええ。今度は“殺し”ではなく、“砕いて”あげましょう。
誇りも、絆も、希望も……全部」
それが“仕事”ではない。
彼女にとっては、何よりも甘美な“儀式”だった。
「私の術で、少しずつ、ゆっくり、セリアを……私だけのものに」
玉座の奥から、骨を噛み砕くような咆哮が響く。
それは世界の裏側で、確かに進行する“終焉”の胎動だった。
その日、空は静かだった。
だが、世界は確実に“喰われ”つつあった。
骨の玉座に座す王は、未だ眠りの中。
だが――その眼は、確かに、継承者たちを見ていた。
第三章に続く