第四話 闇に咲く光
リクたちは必死に逃げた。
砂塵を縫い、崖を越え、山の奥――イプチャルの祭壇へとたどり着く。
荘厳な石柱に囲まれた聖域。
温かな空気が三人を包んだ。
セリアは岩に寄りかかり、荒い息をつきながら口を開いた。
「……私、話さなきゃいけないことがあるの」
リクとバロムは黙って頷いた。
震える手を握りしめ、セリアは語り始めた。
「昔、三闘士が築いた三国は争い……私の祖国、ドルワーム王国が他を滅ぼした」
リクとバロムが息を呑む。
「私は、ドルワームの王女だった。
……城の蔵書庫で、血で染まった真実を知ったの」
セリアは自らを抱きしめる。
「私は、数え切れないほどの屍の上に立っていた。穢れた血をこの身に引いていた。
忘れようと剣を振り、学んでも……夜な夜な聞こえる呻き声、焼けた土の匂いから、逃げられなかった」
震える声で続ける。
「魔王復活を知ったとき……これは贖罪だと思った。命を賭して償わなきゃいけないって」
リクもバロムも、言葉を失った。
セリアはかすかに微笑んだ。
「でも、あなたたちと旅をして……少しずつ、心に温かいものが生まれた。
それでも、夜ごとの悪夢は消えない」
涙が頬を伝った。
「セリア……」
リクが震える声で呼ぶ。
その時、セリアの体が崩れ落ちる。
「セリア!?」
リクが駆け寄った。
苦しげに胸を押さえる彼女。そのとき――
優しい光が祭壇を満たす。
「恐れるな。我が名はイプチャル。この霊峰を守護する者」
声が響いた。
「それは破滅の種子。心を蝕み、死へ導く呪い」
「助ける方法は!?」
リクが叫ぶ。
「彼女自身が、心の闇を打ち払うしかない。
リクよ、神鉱石を彼女の胸に置くがよい」
リクは震える手で神鉱石を取り出し、セリアの胸にそっと置いた。
石は黒く変色する。
「これは彼女の闇。
晴らせねば、彼女は滅びる」
淡々と告げるイプチャル。
「……来るぞ。魔の気配が迫っている」
クラウナたちが近づいている――!
リクは必死に叫んだ。
「イプチャル様!僕の神鉱石で、セリアを救えませんか!?」
光が揺れる。
「可能だ。しかし、代償は大きい。
彼女が闇に堕ちれば、お前もまた死ぬ」
それでも、リクは迷わなかった。
傷だらけで、それでも懸命に生きようとする彼女を見て。
リクは自らの神鉱石を、セリアの胸元に重ねた。
「セリアはいつも僕たちを助けてくれた。次は僕たちが助ける番だ。
死は怖くない。いや、セリアは必ず立ち上がる。僕はそう信じてる!!」
バロムも、自らの神鉱石をそっと置いた。
「よく言ったぜ!リク!俺達の得た力だ、大切なもん守るために使おうぜ!」
二つの石が、淡く光を放つ。
セリアを包み、守るように。
リクは斧を手に取った。
バロムも槌を構える。
「……行こう」
「応ッ!」
二人は振り返らず、セリアの微かな命を背に、迫りくる闇へと立ち向かうのだった。