第七話 血哭の戦場
霧が立ち込める、死の谷。
リクとバロム、二人の前に現れたのは、骨を散りばめた着物を纏う女――クラウナだった。
腰まで流れる黒髪。
艶やかな微笑みを浮かべる、その唇は、毒よりも甘い
クラウナ。
彼女は、なめらかに辺りを見渡した。
そして、艶やかに微笑む。
「――あら。セリアは、いないのね?」
唇に指を添え、くすりと笑う。
「ふふ……いい子だったわ。とっても、素直で、壊れやすくて……」
そして、妖艶な声で囁く。
「もう、終わったのね。
破滅の種子は、どんな絶望の花をあの子に咲かせたのかしら。
ああ、その花を手折るのが、とっても楽しみ」
甘く、猛毒のような声。
リクとバロムは、怒りに震えた。
「ふざけるなッ!!」
リクが吠え、バロムが大地を踏み鳴らす。
だが、クラウナは面倒くさそうに首を傾げた。
「……うるさいわね」
紫の瞳が、ぞっとするほど冷ややかに細められる。
「あなたたちなんて、どうでもいいの」
「私が欲しいのは――セリアだけ。
あの子の、壊れる瞬間だけ」
ぞっとするような執着。
美しく笑いながら、狂った愛情を語る。
クラウナは艶然と微笑み、しなやかに手を伸ばした。
「……だから、彼女の屍は、私がいただくわ。
――誰にも、渡さない」
その囁きは、甘く、そして絶望的だった。
「許さねえ!!」
リクとバロムは、同時に武器を構える。
だが――
「ゾルグ」
クラウナが、うんざりしたように名を呼ぶ。
「飽きたわ。……壊して」
命令は、まるでゴミを捨てるように、無慈悲だった。
地鳴りとともに、血哭のゾルグが動き出す!
処刑斧を振り上げ、雷鳴のように吠える!
「グオオオオオオッ!!」
大地が裂けた。
リクが斧を構えて受け止めるが、その重さに膝がきしむ!
バロムも槌で応戦するが、ゾルグの巨体はびくともしない。
「くそっ、どんだけタフなんだよ……!」
血哭のゾルグ――生ける死刑執行人。
絶望的な力に、二人の動きが鈍りはじめる。
クラウナは面白くなさそうに、指先から極大の魔力を解き放った。
「さあ、潰れて……氷哭嵐!!」
氷の暴風が唸りをあげ、命すら凍りつかせる冷気が渦巻く。
氷塊が舞い踊り、嵐に混じって悲鳴のような風が吹き荒れる。
「「ぐわあぁぁぁぁぁ!!」」
リクとバロムは吹き飛ばされ、氷塊に打ち据えられ、大地に叩きつけられた。
「……つまらないわね」
クラウナが肩をすくめる。
「ゾルグ、とどめを刺してしまいなさい」
巨大な斧を振り上げる血哭のゾルグ。
その背後で、クラウナはあくびをしていた。
「セリア。あなたがいないなら、もう何も面白くないわ……」
囁くような声が、霧に溶けた。
リクは血を吐きながら、かすむ視界でバロムを見た。バロムもまた、重傷を負い、立ち上がれない。
――もう……だめか。
かすかな絶望が、胸を満たしかけたその瞬間。
――風が、変わった。
鋭い金属音が空気を裂いた。
――ガキィン!!
斧が弾かれ、轟音とともに地を穿つ。
ゾルグの斧と巨体の間に、鋼の壁のような影が立っていた。
「二人を、やらせはしない!!」
鋼の盾が、砦のように立ちはだかる。
「ベホマラー!!」
癒しの光がリクとバロムを包み、深い傷すら瞬く間に癒していく。
「……遅れて、ごめん」
その声は、涙が出そうなほど懐かしかった。
「セリア!!」
リクが叫び、バロムが目を見開く。
クラウナの微笑が、初めて凍りついた。
紫の瞳に、微かな苛立ちが浮かぶ。
「……なぜ、立ち上がるの?」
囁くように呟く。
だが、セリアは答えない。
静かに盾を構え、確かな一歩を踏み出した。
戦場の空気が、変わった。
絶望を吹き飛ばす風が、確かにそこに吹いていた。
――反撃が、始まる。