第八話 慈愛の盾【前編】
「セリア!!」
リクとバロムが駆け寄った。
崩れ落ちそうなセリアを、リクが支える。
「よかった……無事だった……!」
「ごめん、遅くなって」
セリアは微笑んだ。
どこか寂しげで、それでも確かな笑みだった。
「……ありがとう。二人が待っていてくれたから……私は、ここに来られた」
バロムが拳をぎゅっと握る。
「礼なんかいらねえよ。仲間だろ」
セリアは、何度も小さく頷いた。
しかし、その光景を、クラウナは苦々しげに睨みつけていた。
「……気に食わない」
紫の瞳に、憎悪と嫉妬の色が滲む。
艶やかな声が、呪詛のように囁いた。
「次は――直接、壊してあげる」
その言葉と同時に、霧が凍りつく。
再び、戦いが始まった。
リクの斧が唸り、バロムの槌が大地を震わせる。
セリアは盾を構え、魔法で仲間を支える。
「スクルト! バイキルト!」
防御と攻撃の魔法がリクとバロムを強化し、三人は互角以上にクラウナたちを押し返した。
だが――
クラウナが、セリアに向かって微笑みながら呟く。
「思い出させてあげる。あなたの祖国が犯した血に濡れた歴史を。呪詛に塗れた屍の声を!」
胸を突き刺す、冷たい言葉。
セリアの顔から血の気が引く。
「……あ……」
胸を押さえ、膝をつきそうになる。
震える手から、盾がこぼれ落ちかけた。
「あなたは偽りの英雄。無力で、穢れた、哀れな存在なのよ」
艶やかな声が、心を抉る。
「黙れえぇぇ!!」
リクが叫び、バロムがセリアの盾を支えた。
「セリアは、穢れてなんかいない!!」
リクは叫ぶ。
「彼女の祖先がどんな過去を持っていようと、セリアは違う!
彼女は、賢くて、気高くて、何より……優しい人だ!」
リクの声は、熱く、強く続く。
「僕の村に魔物が襲ってきた時、君なら逃げられたはずだ。
でも、君は戦った! 盾を構え、必死に! 傷だらけになりながら、僕たちを守ってくれたじゃないか!」
バロムも叫んだ。
「セリア、おめえに救われた命が、ここにあんだよ!おめえ自身がどう思ってようと、俺とリクにとっちゃ、それが真実だ!!」
二人の熱い声が、霧を裂いた。
彼らはセリアを守るように立ちふさがる。
その想いが、確かにセリアの胸に届いた。
セリアは、震える手で胸を押さえる。
過去の幻影が、脳裏をよぎる。
――救えなかった人々。
――業火に焼かれた村。
――血に濡れた、無力な自分。
怖かった。惨めだった。痛かった。
けれど――
今は違う。
支えてくれる仲間がいる。
信じてくれる仲間がいる。
そして――自分自身も!
「……私は……」
セリアは、深く息を吸った。
「私は、弱かった。間違ってた。
でも、それでも……っ!!」
顔を上げる。
まっすぐ、クラウナを見据えて。
「私は、もう自分を偽らない!
過去に傷つき、現実に怯え、逃げ続けた私を――私は、受け入れる!!」
ーー闇に抗う叫びが、未来を照らす。