第九話 慈愛の盾【後編】
セリアの声が、霧を振り払った。
「生まれや血筋なんて関係ない!
私が信じ、私が選んだ道を行く!!
助けを求める人がいれば、手を差し伸べる!
弱き者がいれば、盾となって守る!!」
セリアの叫びが、戦場に響く。
「それが、私!!
セリア=ドルタムの、偽りない姿だ!!」
その瞬間――!
セリアの腰に携えられた神鉱石が、まばゆい光を放った。
ただの輝きではない。
それは、胸の奥に秘めた意志に応えるように――
仲間を守ると誓ったその心に、呼応する光だった。
「……これは……!」
神鉱石が放つ光が、セリアの手に握られた盾へと流れ込む。
金属を伝い、紋様を描くように脈動する。
一瞬で、無骨だった盾が変貌する。
その表面に浮かび上がるのは――三日月の紋と、慈愛を象徴する柔らかな蒼の輝き。
空気が震える。
セリアがそっと一歩、踏み出した。
その姿は、どこか神々しくすらあった。
「……新しい……力……!」
彼女の声はかすれていたが、迷いはなかった。
次の瞬間、盾から溢れた光が周囲に拡がる。
それは単なる光ではない。
空間を変えるほどの圧倒的な“守り”の意志――
まるで、大地が子を抱くような、優しくも絶対の防壁
「――《光壁(こうへき)》!!」
セリアが掲げた盾から放たれたその光は、瞬く間に戦場を包んだ。
半透明の蒼い壁が仲間たちの前に広がり、聖域のような空間を創り出す。
砕けぬ壁。染まらぬ光。
そのただ中に立つセリアの姿は、まさに“慈愛の守護者”そのものだった。
「な……っ!!」
クラウナが顔を歪める。
放たれた闇の魔力が《光壁》に触れた瞬間――まるで霧が朝日に焼かれるように、呆気なく浄化されていく。
混沌を拒絶する、絶対の防壁。
闇の侵食すら寄せつけぬその光に、戦場の空気が変わる。
セリアの背中に、光が宿る。
それは力の誇示ではなく――
誰かのために立ち続けることを、誇りとした者にだけ与えられる“慈愛の光”。
「これが……私の、盾……!」
セリアの目には、決意と覚悟の輝き。
涙が頬を伝うその顔に、誰もが“希望”を見た。
「今よ!リク!バロム!」
セリアの声に、リクが即座に応じる。
「任せろッ!」
斧を握る手に力を込め、光をまとわせる。
踏み込んだその動きは、風のように鋭かった。
「真・斧無双!!」
うねる連撃が、ゾルグの巨体を切り裂いていく。
雷と光が斧に宿り、次々と閃光が走る。
「その涙、無駄にしねぇ……いくぜッ!」
バロムが短く叫び、地を蹴った。
大槌を振りかぶるその姿に、一切の迷いはない。
「地砕衝(アースクラッシュ)!!」
轟く衝撃。
大地が揺れ、ゾルグを真下から打ち上げるような激震が襲う。
「「おおおおおッ!!」」
二人の必殺の一撃が、巨躯を叩き伏せた。
「……まさか、私が……!」
クラウナが膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。
セリアが、静かに盾を構え直す。
「クラウナ。
あなたの絶望も、あなた自身も――私は、否定しない」
その声は、優しかった。
だが、決して揺るがぬ強さを帯びていた。
「だからこそ、私は――前に進む!!」
慈愛の光を纏った盾が、まばゆい閃光を放つ。
光の中で、クラウナは悲鳴を上げた。
だが、最後の瞬間――
その紫の瞳が、ほんの一瞬だけ、安らぎに揺れた気がした。
そして、クラウナは霧となり、消えた。
「ありがとう、リク、バロム」
セリアは、あふれる涙を隠そうともせず、微笑んだ。
その笑顔は、かつてないほど、まっすぐで、あたたかかった。
「おかえり、セリア」
リクとバロムも、笑った。
疲れ切った顔に、喜びと誇りをたたえて。
傷も、痛みも、悲しみも。
すべてが、今この瞬間、絆へと変わった。
――この三人なら、どんな闇も越えていける。
誰もが、そう信じられる絆だった。
霧は静かに晴れ、柔らかな光が降り注ぐ。
その光の中を、三人は――並んで歩き出した。
新しい未来を、共に切り拓くために。