第十話 神の加護と最後の地
天を突く霊峰アクロニアの頂に、白き陽光が差し込んでいた。
山神イプチャルの神殿。その中心に、リク、セリア、バロムの三人が立っていた。激闘を制し、傷付きながらも立ち上がった彼らの胸に、誇りと絆の火が灯っている。
「よくぞ来た、選ばれし者たちよ」
荘厳な声が、空気を震わせた。
イプチャルの幻影が神殿の奥より現れ、三人を静かに見つめる。
「汝らは心を貫き、試練を超えた。我が加護を与えよう」
三人の胸元で、神鉱石が青白く輝いた。
その光が、それぞれの武器へと吸い込まれていく。
閃光の斧は雷をまとい、震天の槌は大地の震えを宿し、賢哲の盾は光の結界を纏った。
「……これは……!」
リクの斧に、新たな紋様が浮かび上がる。閃光が脈動のように走り、雷の音が遠くで鳴る。
「感じる……私の盾が、応えてくれてる……」
セリアがそっと盾に触れ、微笑んだ。
「こいつが……この槌の“本物の力”か」
バロムは両手で槌を握りしめ、その重さを確かめるように深く息を吐いた。
「汝らの魂が、その力を目覚めさせたのだ。
だが、聞くがよい。魔王の真の狙いは、この大陸の滅びに留まらぬ」
イプチャルの瞳が深く沈んだ。
「魔王は、四千年前に三闘士が討ち滅ぼした“原始獣フォドラス”の骨を求めている。骨を喰らうことで、その力を継ぎ、この世界を、終わりなき咆哮の渦へと沈めようとしているのだ」
「骨を……喰らう?」
セリアが息を呑む。
「死者の骨を喰らい、力と魂をその身に取り込む。フォドラスの骨を得れば……もはや誰も抗えぬだろう」
「その骨は……どこに?」
リクの声に、イプチャルは答えた。
「かの獣が討たれし地――カルサドラ火山の地下洞。魔王はすでにそこへ向かっている」
沈黙が流れた。だが、誰も躊躇わなかった。
「……行こう」
リクが一歩を踏み出す。
「止めるんだ、魔王を」
「ええ、ここで止めなければ、もう後はない」
セリアも頷く。
「ついに魔王をぶっ叩く時がきたってことか」
バロムは槌を肩に担ぎ、にやりと笑う。
リクが手を差し出す。
「行こう、みんなで!」
セリアがその手を取り、続いてバロムも力強く手を重ねた。
「みんながいたから、僕はここまで来られた」
「……二人に出会って、私の世界は変わった。そう、思ってる」
「……だったら、最後まで共に、だな」
三人の武器が、風の中で共鳴するように鳴った。
雷が走り、大地が震え、光が舞った。
そして、山の風が吹き抜けた。
その風はもはや冷たくはなかった。
雲が流れ、光が道を照らす。
新たなる希望の息吹――そして、最終決戦の呼び声だった。
霊峰を後にした三人は、遥か西に広がる火山地帯へと歩を進める。
かつて神すら畏れた、原始獣の眠る地へ。
すべてを終わらせるために。
第三章 夜明けを紡ぐ者達 完