第二話 選ばれし光
「――滅びこそが、償いだ」
ハーゼルの声が、石窟に鳴り響いた。
言葉に宿るのは激情ではなかった。
静けさの奥に凍てついた決意――選び取った絶望の重さ。
だが、その言葉に、最初に応えたのはセリアだった。
「償いの名のもとに命を奪うなんて……それは、ただの絶望の連鎖よ」
彼女の声は震えていたが、その目には確かな光が宿っていた。
「確かに、ドワーフは過ちを犯した。
けれど、それでも……私は信じたい。
いま隣で生きようとする人が、過去とは違う未来を選べるって」
ハーゼルは目を細めた。
「甘いな。お前のような者が、この世界を繰り返させる」
「……なら、繰り返さない。私は、そのためにここにいる!」
セリアの叫びに呼応するように、リクが前に出た。
「僕は…知らなかった、ドワーフの過去も、あなたのことも。
でも、僕には今、一緒に戦ってきた仲間がいる。
ここまできたのも、僕の意思だ!」
バロムもまた、静かに武器を構えた。
「……過ちがあったからといって、すべてを終わらせるのが正義じゃねぇ。
鍛えた武器は、破壊のためじゃねぇ。
誰かを守る力だ。俺は……そう信じたい」
三人の想いが交差する。
ハーゼルは一歩、静かに踏み出す。
「――何も選ぶな。何事にも逆らうな。選べば、必ず過ちを犯す」
その声には激情はなく、長い沈黙の果てに凍てついた悲哀が宿っていた。
「私は……かつて、王として民を導こうとした。
争いを避け、知をもって未来を築こうと――そう信じていた。
だが、民は違った。
選ばせれば欲に走り、与えれば争いを始める。
理を語っても、誰も耳を貸さなかった。
愚かで、脆く、醜いほどに……それが人の業というものだ」
彼は薄く目を伏せ、なおも言葉を続ける。
「滅びは、彼らが自ら招いた結末。
私はそれを止めることすらできなかった。
いや、止める資格など初めからなかったのかもしれん……。
ならば、せめて――その愚かさを、この手で終わらせる」
ハーゼルの瞳に、色なき決意が灯る。
「骨喰らいの魔王は、ただの破壊者ではない。
あれは、理だ。摂理だ。
命が生まれ、やがて死ぬように。
太陽が沈み、夜が訪れるように。
過ちを重ねた種が淘汰されるのは、自然の流れだ」
そして、リクたちに鋭く視線を向けた。
「それに抗おうとするお前たちは、
まるで沈まぬ太陽を願うかのように愚かだ。
そんな“希望”は、かえって世界を濁らせる」
その言葉に、リクが一歩踏み出した。
「……それでも、僕は選ぶよ」
静かだけれど、確かな声だった。
燃えるような瞳が、まっすぐにハーゼルを見据えている。
「たしかに、人は間違える。僕たちも、たくさん失敗した。
でも、それでも僕たちは何度でも選び直してきた。
仲間を信じて、未来を信じて――進んできたんだ!」
セリアとバロムがその背に並ぶ。
「間違いが怖くて、なにも選ばなかったら、きっと世界は変わらない。
変えたいんだ。僕たちは――過ちを超えていきたいんだ!」
リクの声が、広間の空気を切り裂いた。
沈黙。
そして、ハーゼルの目がかすかに細められる。
「……ならば証明してみろ。
お前たちの“選択”が、本当に正しかったのかを――!」
彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。
記録と因果、改変の禁術――灰色の光が周囲に放たれ、空間そのものが歪み始める。
「私は、未来を知っている。
正義は敗れ、絆は裏切りに砕かれると――歴史が示している!」
石の広間がゆがみ、過去と未来の断片が霧のように浮かぶ。
リクが叫ぶ。
「いくぞ、みんな!!」
次の瞬間――因果を操る智将と、未来を信じる三人の戦いが始まった。