第三話 時の牢獄
風のように駆けるリクとバロム。
その動きに合わせ、セリアが呪文を紡ぐ。
「スクルト! バイキルト!!」
光が二人の体を包み、力と守りを与える。
「蒼天魔斬!!」
「ランドインパクト!!」
唸る斧、轟く槌――二人の猛攻がハーゼルへと迫る。
だが、ハーゼルが静かに詠唱を始める。
「――死霊召喚」
彼の足元に広がる魔法陣から、黒き靄が立ち上る。
そこから現れたのは、錆びた鎧をまとい、空虚な眼を持つ――かつてのガテリア兵の亡霊たち。
「なにッ!?」
リクとバロムの攻撃は、死霊たちに阻まれ、ハーゼルへ届かない。
「こやつらは滅びた我が国の兵。
死してなお争いに囚われた、愚かで哀れな魂たちだ」
「クソがッ!胸くそ悪ぃことしやがって!!」
バロムが槌を振るい、死霊を薙ぎ払う。
だが、ハーゼルは次々に死霊を呼び出し、リクたちはじわじわと押し込まれていく。
「このままじゃ埒が明かない! ハーゼルを直接討つ!!」
リクの声に、セリアが即座に反応する。
「いくわ!光壁!!」
セリアの盾から蒼き光があふれ、二人を包み込む。
その清浄な輝きは、死霊の動きを鈍らせ、霧のように払い落とす。
「アースクラッシュ!!」
バロムが大地を砕き、衝撃波で道をこじ開ける。
「今だッ!!リク!!」
その瞬間、リクが突風のように駆け抜ける。
「真・斧無双!!」
しかし――
「ボミオス……」
ハーゼルの口元から漏れた言霊と同時に、大気が鉛のように重く沈む。
リクの全身を絡め取る灰色の鎖が現れ、動きが鈍り始める。
「ぐっ……でも、まだだッ!!」
全力で振り下ろされた斧が、ハーゼルの肩をかすめる
眩い光の斬撃が、その体を貫く。
「ぐあああああッ!!」
閃光の余波に吹き飛ばされ、後退するハーゼル。
だが、すかさず死霊兵たちが割って入り、リクを遮る
「ドルマドン!」
直後、凄まじい闇の奔流がリクを襲う。
「マジックバリアッ!!」
咄嗟にセリアが呪文を唱え、盾を構えてリクの前に躍り出る。
「グウゥゥゥッ!!」
強烈な魔力の奔流に、歯を食いしばって耐え抜くセリア。
「ベホマラー!!」
癒しの光が三人を包み、体勢を立て直す。
一進一退の攻防のなか――
「さすがは三闘士の末裔……か」
そう呟いたハーゼルが、冷たい笑みを浮かべる。
「だが、綻びは見えた」
彼の視線が、リクに注がれる。
「貴様には、“時の牢獄”に囚われてもらおう」
手をかざす。
「――時幻牢《じげんろう》」
ハーゼルの掌から幾重もの灰色の魔法陣が展開し、轟音と共に空間そのものが砕け散る。
歪んだ時の奔流がリクの身体を飲み込み、周囲の景色が滲み崩れていく。
「う、あ……っ!? な、なんだ……これ……!」
「リクッ!!」
セリアが叫び、駆け寄る。
「ベホイム!!」
回復の呪文が発動するが、リクは意識を戻さない。
襲いかかる死霊兵――
「ランドインパクト!!」
バロムの一撃が敵を吹き飛ばす。
「てめー!リクに何しやがった!!」
怒りに満ちた声が轟く。
「ザメハ! キアリー! キアリク!」
セリアが次々と状態異常回復の呪文を重ねるも、リクは微動だにしない。
「ダメ! リクが目を覚まさないわ!」
セリアの悲鳴が石窟に響く。
「無駄なことよ。これは、古に失われし禁術。
“時の狭間”に囚われた者は、自らが最も変えたかった過去、
そして、選ばれた未来――
有り得たかもしれない世界に取り込まれる」
ハーゼルの声が冷たく響く。
「まさか……そんなこと、あるわけ……!」
「それが、ありうるのだ。
魔王様より授けられた、究極の因果律干渉術。
その名も《時幻牢》。
そして私は、この術をもって幾度も未来を見た。
その果てに至った答え――それがドワーフの根絶だ」
誇らしげに両腕を広げるハーゼル。
「何度歴史を繰り返そうと、奴らはいつか必ず戦火を選ぶ。
争いこそがドワーフの本質。
であれば、彼らは世界にとって“不要”なのだ」
ハーゼルの眼光が突き刺さるように告げる。
「さあ選べ! 魔王様に平伏すか否かを!
――はい か いいえ。
答えはただ一つを残すのみ!!」
セリアとバロムは、目の前に突きつけられた絶望的な“選択肢”に、言葉を失ったまま立ち尽くしていた――