第四話 時の狭間
灰色の光がリクを包み込んだ瞬間、世界は音を失った。
足元が消え、空も大地もなく、ただ「何もない」空間を漂う感覚。
やがて――意識がふっと暗闇に沈み込む。
次にリクが目を開けたとき、そこに広がっていたのは懐かしい光景だった。
陽光に照らされた畑。遠くで笑い声を上げる村人たち。軒先に干された洗濯物。
それは、かつて自分が妹ティナと暮らしていた村だった。
「……ここは……?」
呟いた声が震える。
目の前の光景があまりに自然で、夢とも幻とも思えない。
通りすがった村人に声をかける。
「す、すみません! この村は……魔物に……襲われたり……」
男は怪訝そうに首を傾げ、笑って答えた。
「何を言ってるんだい? ここはずっと平和さ。魔物なんて見たこともないよ」
その一言で、リクは理解した。
――これは、あの日の“前”。
村が襲われ、すべてを失うよりも前の、ありえたかもしれない時間。
「じゃあ……ティナは……」
胸が熱くなる。
思い出す。あの日、自分の腕の中で冷たくなっていった妹の姿を。
リクは咄嗟に駆け出していた。
「ティナ……ティナ!!」
息を切らし、家の扉を乱暴に開け放つ。
だが、中は静まり返っていた。
小さな机、継ぎ接ぎの布団……だが、そこに彼女の姿はない。
「……いない……?」
愕然として膝が崩れ落ちる。
頭を垂れ、拳を震わせる。
――また、届かなかったのか。
その時だった。
「……お兄……ちゃん?」
背後から、聞き慣れた声がした。
リクは弾かれるように振り返る。
そこに立っていたのは、薪を抱えた、小さな少女。 顔色は少し青白いが、瞳は確かに生きて輝いていた
「ティナ……!」
叫んで駆け寄り、強く抱きしめる。
「えっ……お、お兄ちゃん!? どうしたの、急に……」
「……ティナ……ティナ……!!」
涙が止めどなく溢れ、声が掠れる。
「ごめんなさい、薪が切れそうだったから、取りに行ってただけよ」
妹は困ったように笑う。
「ああ……ああ、よかった……」
リクは嗚咽を漏らしながら、さらに抱きしめる。
夢かもしれない。それでも、この温もりを手放せるはずがなかった。
「……もう、変なお兄ちゃん」
ティナは小さくくすりと笑い、細い腕で兄の背に抱き返した。