※去年5月にpixivに投稿した文章の再掲になります
※同じ内容なので以前に読まれた方にとっては重複になります。ゴメンナサイ
※長いので何回かに分けて掲載していきます。
【あらすじ】
ネルゲル討伐後、ウェディ♂の元の体の持ち主が1日だけ復活。
レーンの村に帰省して、懐かしい皆さんに最後の別れを告げに行きます。
いちおーこれが一番最初に書いた話です。
潮の匂いが混ざった穏やかな風が吹いている。
「・・・・・・久しぶりだな」
強い陽射しに目を細めながら、僕は近づいてきた故郷の村を眺めた。
一面に広がる、きらきらとした海。うっそうとしたヤシ林の間に、ぽつりぽつりと布をかけたテントのような家が散らばっている。
コルット地方の外れにある、レーンの村。
昔は鉄道も走っていないから不便だと感じていたけれど、何故だろう?
今はこうして目にするだけで、胸に温かい何かが溢れてくるような気持ちになる。
離れていたのは、ほんの数ヶ月のはずなのに。
フィーヤ孤児院の奥の部屋を訪ねると、床に胡坐をかいて網を繕っていたバルチャが驚いた様子で顔を上げた。
「明日レンダーシアに発つので、ご挨拶に来ました」
視線を合わせようとして軽く身を屈めると、バルチャは何かを確かめるかのようにじっと僕を見つめた。
「お前、本当にお前なのか?ワシの知っている、お前なのか?」
動揺しているのだろう。手と声がわなわなと震えている。
「うん、」
頷くと、痛いぐらいの力で腕を掴まれた。
「よう戻ってきたな」
掴んだ僕の腕にバルチャは顔を押し付け、声を震わせた。
今から数ヶ月ほど前に、【僕】は一度死んでいる。
幼馴染のヒューザと剣の稽古をしていた時に、ふとした事故で重傷を負ってしまったのだ。死んだというのは決して言葉のあやなんかではなく、心臓も呼吸も止まって文字通り絶命した。
故意でやったわけではないとは言っても【僕】を斬り殺してしまったのだから、たぶんヒューザは村のみんなから物凄く責められたんじゃないかと思う。
でも、今ここにいる僕は幽霊なんかじゃない。事情があって話すと長くなるのだけど、こうして元の姿で故郷の村に戻ってくる事ができた。
「いや~、良かった良かった」
普段あまり笑わないはずのバルチャが、珍しく顔をくしゃくしゃにして喜んでいる。
僕が帰って来た事が嬉しいのかな?
今日は泊まっていくんだろ?なんて言いながら、僕が子どもの時に使っていたベッドまで用意し始めている。
「ね、いつまで居られるの?レンダーシアって遠いんだよね。何しに行くの?」
僕が久しぶりに帰省していると聞いて、駆け付けたらしい。
一緒にお茶を飲んでいたアーシクが、興味津々といった様子で僕の肘を軽く小突く。
「明日の朝には発つよ。アーシクこそ子どもはまだ?」
「えっ、いやあの、こ、子どもなんて!キールが『私が一人前の主婦になるまでは実家にも帰らないし、子どもも作らないわ』なんて言ってるし、まだその」
よほど恥ずかしかったのか、アーシクは真っ赤になって口をぱくぱくさせている。
「キールが一人前の主婦になるまでは、何もかもお預けって事だね」
僕が笑いながら言うと、
「うん、そうなんだ。だから僕たち結婚したのにまだ一度も・・・・・・って、そうじゃなくって!」
「お前ら、何話してるんだよ?」
不意に声がしたかと思うと、戸口の方でヒューザが腕を組んで立っていた。
♪海に消えた祈り♪
⇒https://www.youtube.com/watch?v=X9NhGuDBcFw
♪男声バージョン♪
→https://www.youtube.com/watch?v=J6VGjGbm3KY
右でピースサインを出しているお兄様に、絵を描いていただいています。