去年の5月pixivに投稿した文章の再掲となります。
同じ内容なので、すでに読まれた方は重複でゴメンナサイ。
これが最初に書いた話です。
遠く潮騒の音が聞こえる。
僕は隣で眠っているバルチャの寝息を聞きながら、静かにベッドから起き上がった。起こさないようにそろりそろりと歩き、音を立てないようにドアを開ける。辺りの様子を窺いながらルーラストーンを出そうと懐に手を伸ばすと、
「どこに行くんだよ?」
横手から響いた声に、僕はビクッとして手を止めた。視線を向けると少し離れたところでヤシの木にもたれ、ヒューザが立っているのが見えた。
「眠れないから、夜風に当たりに。ヒューザは?」
「まあ、似たようなものだよ」
やや不審そうな表情を浮かべながら、ヒューザは僕をまじまじと見つめる。
「そう」
「起きてたんなら、ちょうどいいや。ちょっとお前、そこまで俺に付き合えよ?」
歩き出そうとしていた僕は少し迷ってから、一応頷いた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
僕らは村外れの浜辺に来ていた。
サンダルを脱いで素足になると、僕は桟橋に腰掛けて海水に足を浸す。ひんやりとした水温と、打ち寄せる波の感覚が快い。
ヒューザは僕の背中を睨みながら、立ったまま腕を組んでいる。
「ずっと聞きたかった事があるんだ」
「何?」
座ったまま振り返ると、
「あの日、さ」
少しためらった様子で、ヒューザは口を開いた。
「あの日、お前に何が起きたのか教えてほしい」
「あの日って?」
「とぼけんなよ。俺がお前にケガさせて、葬式をした日だよ。あの日からお前、おかしかったじゃねえか。教えろよ?葬式の日からジュレットの街で会ったお前って、一体誰だったんだ?別人の魂が体に入っていたんじゃないのか?」
「気のせいだよ。僕はこうやって、ちゃんと生きているんだし」
「嘘だ!」
月明かりに照らされたヒューザの唇が微かに震えた。
「あの日のこと、どれぐらい覚えてるんだ?起き上がった後、お前は何をしていた?」
「周りが騒がしかった事や、君が泣いていた事なら覚えているよ」
「俺は別に泣いてなんか!いや、そんなことはどうでも良い。今はお前の話をしているんだ。あの日起き上がったのが本当にお前だったなら、起き上がった後に何があったのか言えるはずだ。言ってみろよ?起き上がった後に、お前は何をしていたのか」
「そんなこと、言われても」
僕は言葉に詰まった。
そんな事、言えるはずがなかった。起き上がった時には、僕はもう僕でなくなっていたのだから。
「言えないのか?」
いたたまれなくなり、僕は反射的に顔を逸らした。
「なんで言えないんだよ?」
「何ヶ月も前の話じゃないか。今そんな事言われたって」
「忘れるわけないよな?お前はあの後アーシクと一緒に慰霊の浜に行って貝殻を拾い、シェルナーの試験に受かってキールを迎えに行った。で、キールが悪霊に襲われたから、お前が力ずくで助けた。あんなに大事件が立て続けに起こっているんだから、忘れるわけないよな?」
何も答える事ができなかった。
とりあえず僕はシェルナーの試験に受かり、アーシクとの約束もきちんと果たしていたのか。それが今わかっただけでも、良かったのかもしれない。
♪海に消えた祈り♪
⇒https://www.youtube.com/watch?v=X9NhGuDBcFw
♪男声バージョン♪
→https://www.youtube.com/watch?v=J6VGjGbm3KY
右側で踊っているアイパッチのお兄様に絵を描いていただいています。