去年5月pixivに投稿した文章の再掲となります。
同じ内容なので、既に読まれた方は重複でゴメンナサイ。
たっぷりと長い沈黙が落ちた。波の音だけが、夜の村に響き渡る。
「いつ、気づいたんだい?」
僕は視線を海に向けたまま呟いた。
「最初からおかしいと思ってた。俺言ったよな?まるで別人の魂が突然入り込んだようだって。確かにお前なんだけど目付きも雰囲気も別人で、俺達の事も分からないみたいだった。怪我したせいで記憶喪失にでもなったのかと思ったんだけど、やっぱりなんか変なんだよ。子どもの時から一緒なんだ、それぐらいすぐに分かる」
僕は黙って俯いている。返事をしない僕の様子を見て、「でも、」とヒューザは言葉を続けた。
「でも、お前に問い質す勇気なんて俺にはなかった。だって、そうだろ?誰が言えるんだよ?自分が人を殺したかどうか、殺したかもしれない相手に確認するなんて。そしたらバルチャのおやっさんが鏡を持ってきて、お前と話しているところたまたま見ちまってさ」
僕は何も言えないまま、黙っている。
「鏡には、見たこともない人間が映ってた。見た目はお前と変わらないはずなのに。いつすり替わったんだ?それとも最初から、お前はああいうものだったのか?」
「ごめんね」
何故か自然に、この言葉が口をついて出た。
「何がだよ?」
ヒューザがむきになった様子で声を荒げる。
「君には会わないつもりでいたんだ。【彼】じゃなくて【僕】に会ってしまったら、きっと苦しめたり傷つけてしまうと思って。だから顔を合わせないつもりでいたのに。まさか今日、帰ってるなんて思わなかったから」
「お前、何を言っているんだよ?」
僕はヒューザに、長い長い話をした。
自分と同じ名前を持ち、村ごと滅ぼされた人間の若者に再び生を与えるために、僕の体を貸してあげていた事。【彼】が自身の背負った重大な使命を果たし、これからまた新たな使命を背負って新大陸に行こうとしている事。
「つまり、だ」
と、ヒューザは深いため息を漏らす。
「お前と同じ名前の人間で死んだヤツがいて、そいつが生き返って冥王とやらを倒すためにお前の体を借りたと」
「そういう事だね」
「そんな話を信じろって言うのかよ?」
呆れ返った様子で僕を見つめ返している。
「信じるか信じないかは任せるよ。ただ、フルッカは今でもグレンの城下町で暮らしているし、バルチャの話によると他にも生き返しがあった人もいるみたいだよ」
ヒューザは何かを考え込んでいるような顔をしている。
「で、その人間はもう役目を果たし終えたんだよな?だからお前が戻って来て、これからもそのまま生きていくんだよな?」
「違うよ」
僕は短く、でもきっぱりと否定した。
「今日はどうしてもやりたい事があって、1日だけ自分の体に戻してもらったんだ。【彼】は僕の中で眠っている。でも、僕はもう死んだんだ。いずれは消えないといけない。だから、」
「・・・・・・ふざけんなよ」
小さな、でも怒りを露わにした声をヒューザが漏らす。次の瞬間、僕は思い切り掴みかかられていた。
「痛いよ。放して」
僕は僅かに悲鳴を上げる。
「なんでお前だけがそうやって、割を食わないといけないんだよ?その人間だって死んでんだから、お前の体はお前が自由にすればいいじゃねえか。なんでお前、平気な顔してるんだよ?」
「だってもう、済んでしまった事じゃないか。死んだ人は、生き返ったりなんかしない」
最後の一言に反応したのか、ヒューザの肩がビクリと震える。ふっと腕から力が抜けたと思ったら、今度は縋る様な目で顔を覗き込まれた。
「でも、その人間は生き返って元の体に戻ったんだよな?だったらお前だって」
何と答えるべきなのか、僕は少し迷った。
これから新しい大陸に行くのだから、ヒューザと顔を合わせる事はたぶんもうないだろう。
でも、【彼】もそしてヒューザも旅を続けるのだとしたら、もしかしたらどこかでまた出会う事もあるかもしれない。今この場を取り繕って、出会った時に落胆させてしまうのは酷なような気がした。
だったらいっそ、今本当の事を伝えた方が良いのではないだろうか?
「【彼】は確かに生き返ったよ。でも、僕は」
とっくに存在を忘れていたはずの心臓が、今さらながら突然激しく打ち始めた事に気づく。
僕は意を決して口を開いた。
♪海に消えた祈り♪
⇒https://www.youtube.com/watch?v=X9NhGuDBcFw
♪男声バージョン♪
→https://www.youtube.com/watch?v=J6VGjGbm3KY
右側で踊っているアイパッチのお兄様に絵を描いていただいています。