去年pixivに投稿した文章の再掲となります。
重複の方はゴメンナサイ。
「僕はもう、二度と生き返る事はない。あの日、君と剣の稽古をしていた時に僕は死んだんだ」
ヒューザが何か、鋭い声で叫ぶのが聞こえた。
「えっ?ちょっと、何?」
無言で強く抱き寄せられ、ほんの一瞬僕は身を強張らせる。
「お前さ、あの時俺が何を考えていたと思う?倒れて最後の息してるお前を見て、何を思っていたと思う?」
僕を抱いたまま、ヒューザは耳元で囁いた。顔は見えないけれど、泣いているのだろう。声が掠れている。
「さあ?」
呆然としながら答えると、
「お前が死んだら、人殺しになっちまうって。そしたら俺は、もう終わりなんだって」
と、絞り出すような声でヒューザは呟く。
「それは、誰だって同じなんじゃない?好き好んで悪者になる人なんていないよ」
僕の言葉に、ヒューザは強くかぶりを振る。
「違う!俺はどうしたらこの場を凌げるんだろうって、そればっかり考えていたんだ。居合わせたやつ全員殺して逃げれば、なかった事にできるんじゃないか?って。ほんの一瞬だけど、そんな考えが頭に浮かんだりもした」
サイテーだよな、と呟きながら、ヒューザの腕に力がこもったのが分かった。
「俺のこと恨んでいるよな?憎んでいるよな?よくも殺しやがってって、思っているよな?」
「・・・・・・思ってないよ」
僕はヒューザの背中を、小さな子どもにするようにポンポンと叩いた。
「思ってないから、大丈夫だよ」
「ホントかよ?」
「うん、本当だよ。だからそんな風に泣いたりしないで」
「泣いてなんかいねえよ!」
ヒューザが乱暴に涙を拭う。
「今でも焼き付いて離れないんだ、あの時のお前の顔が。血の気が引いてぼんやりした目で、『助けて』って何度も弱々しい声で呼んでいたのに。あんなに血がいっぱい出て、苦しそうにしていたのに。なのに、なのに俺は。目の前にいるお前のことより、自分のことばかり考えていて・・・・・・」
「気にしなくて良いよ。お互い真剣での手合わせに納得していたし、僕だって他の事に気をとられてしまったんだし」
「なんでお前が落ち着いているんだよ!お前はもう、うまい物を食うこともアーシクみたいに女といちゃつく事もできないんだぞ!」
「あの世に行く前に、最後にみんなに会いたかっただけなのにな。そんな風に言われると、僕も困っちゃうよ」
「ちきしょう。ちきしょう・・・・・・っ!」
ヒューザは僕の体を抱いたまま、声をあげて泣き続けた。
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どれぐらいそうしていたか分からない。僕はヒューザが落ち着くまで、抱かれたままその場で大人しくしていた。
ようやく泣き止んだのだろう。たまにしゃっくりのような声が漏れるけれど少し落ち着いたのか、ヒューザはそっと体を離した。
ずっと泣いていたせいか、ひどい顔をしている。
「朝になったら、死体に戻っているのかよ?」
鼻を啜りながらヒューザが尋ねる。
なんて言い草をするんだろう!露骨な言い方に、僕は思わず笑ってしまった。
「死体には戻らないよ。【彼】と交代するけどね」
「そっか。じゃあ入れ替わる前に、他のやつらに会う前に行こうとして、さっき部屋から抜け出してきたのか?」
「そうだね。君やバルチャは気づいてしまうと思ったから」
「アーシクは気づかないかもしれないけどな」
ヒューザが少し笑う。
「そうだね。【彼】から少し聞いているけど、全く気付かなかったみたいだね」
僕は空を仰いだ。少し夜が白み始めている。
「そろそろ、行こうかな?」
「どこに行くんだよ。あの世にか?それとも、船に乗りにか?」
ヒューザは少し寂しそうな、諦めたような表情を浮かべて僕を見ている。
「レンドアへ。そこから明日の正午にレンダーシア行きの船が出るんだ。でも、朝になったら【彼】が出てきてしまうから、その前にね」
「もうちょっとぐらい、ゆっくりしていけよ。おやっさんがベッドまで出してくれたんだし、完全に夜が明ける前に起こしてやるからさ。少し眠ったらどうだ?」
「・・・・・・そうだね。死んでから、食べたり眠ったりした事がないから。たまにはそれも良いかもね」
♪海に消えた祈り♪
⇒https://www.youtube.com/watch?v=X9NhGuDBcFw
♪男声バージョン♪
→https://www.youtube.com/watch?v=J6VGjGbm3KY
右側でリュートを弾いている、アイパッチのお兄様に絵を描いていただいています。