勝手にやって来た朝を疎ましく感じていた
満足な昨日を与えてくれなかったくせに
満足できる今日をくれるのか?
1日を素晴らしい物にするのもダメにするのも
自分次第だろうと思うかもしれないが
俺は精神障害者だ
生きているだけで苦しい
だから満足できる1日なんて来ない
・・・そう・・思ってたはずなのだが
「おはようございます
今日もお互い死に損ないましたね」
この不気味な挨拶で
毎日 今日の朝を告げられる
彼女はリリア
俺と同じ精神障害者だ
なぜ こんな挨拶をするのか?
彼女から言わせると
寝ている間に死ねたらラッキーと
思うようになったらしい
生きてるだけでも身体が苦痛をあげるほど
苦しい
死ぬには それほど身体は悪くなく
生きるには常に苦痛を味わうほど苦しい
できれば苦しまないで
死を意識しないで でも死ぬのは怖いから
気づいたら死んでた
それがほしくて
このような挨拶のような考えに至った
そして俺は
「挨拶として
その言葉は どうなんだ?」と
毎朝こんなやりとりをしている
精神障害者である俺達
親から病院にブチこまれた
金だけはある だから面倒は見ない
入院費だけ払って
精神障害って理由で
病院に面倒を見させている
リリアも同じ
とある きっかけで出会った俺達
主治医の言葉にキレた俺は
声を荒げて怒鳴った
そんな俺に声をかけてきたリリア
怒りのまま彼女が持っているバッグを
振り払ってしまったが
俺が目撃したのは
床に散乱した大量の薬
「私が死なないために
必要な物らしいですよ」
薬を拾い集め俺に言う
「驚かないんですね?」
「薬の量にか?」
「普通の人が見たら引きます」
「俺も そのくらい飲んでる」
「どこか悪いんですか?」
「精神障害者だ」
その言葉を聞いて
表情が一瞬 固まったような反応
そう反応するよなと思ったが
「私と同じだ」
同じ人が居たことに反応を示したリリア
俺も思った
俺と同じなのかと
そんな出会いだったから
お互い最初は最悪な印象だったかもしれない
リリアは「そうでもないですよ?」と
いつも言ってくれるのだが
その出来事があってから
いつもの朝 人気のないフロアに
リリアもやってくるようになった
精神障害者で何もできない俺たち
ここは病院
時間だけはアホなくらいあった
「ヒマだから」と言う理由で
なにげなく会話してたのだが
話が尽きることはなかった
不思議なほどに
よく飽きないねって思うほど
会話は続き
朝から夜まで おしゃべりして
気づけば消灯時間になっていた。
ある日の事
人が変わったかのように接してきたリリア
どうしたんだ?と思わず聞いてしまった
上品で おしとやかな性格だったはずなのに
今は純粋で子供っぽい
リリアから言わせれば
ネコを被る必要がなくなったと思ったらしい
これが素のリリアなのか
「じゃあ ネコを被ってみて?」
その振る舞いは上品で おしとやか
「ありのままで居て?」
その振る舞いは純粋で子供っぽい
「・・・二重人格か?」
「どっちの私が良い?」
「・・・」
そのギャップがおかしくて
つい笑顔が零れてしまった
「バカにしてるでしょ!?」と
怒るリリア
バカにしてるどころか
愛しささえ覚える
本当のリリアを見せてくれたんだ
お互い俺とリリアには何もなかった
どっちも学校に通ってるような年齢なのに
身体は痛みを訴えて
勉学に励めるほどの体力はない
普通の人なら
体育祭 文化祭 部活 青春
そう呼ばれる物を楽しんでいるんだろう
でも俺達が居るのは病院
ベッドの上で天井を見上げ
ヒマだからと
いつもの人気のないフロアに行き
リリアと他愛のない会話をしている
そしてお互いに
「私達って何もないね」って
言い合っては笑って居た。