◇ 2025七夕イベントのネタバレを含みますので、ご注意下さい ◇
アズランといえば風の町。
吹き抜ける息吹が、七夕の里へと続く参道を彩る風車の列を涼やかに廻し、夕暮れになお居座る夏の暑さを鎮めてくれる。
しかし代わりに沸き起こる祭りの熱気を、やぐらのふもとで存分に味わうウェディの姿があった。
ラベンダーにしめやかに蝶の舞い、かたや優しいクリーム色に艶やかなりんごの散らされた浴衣にそれぞれ身を包む2人は、スーパーセレブと現役モデルというだけあって、思う様、観衆の目を引く。
されど有象無象の視線はどこ吹く風と、じにーは素知らぬ顔でリンゴ飴を齧りながら、依頼の品のアクセサリーを受け取って走り去る白髪の少年を見送った。
その快活なオーガの少年とは、何処かのクエストですれ違った記憶がある。
じにーの傍らに立つリーネにとっても、少年はアクセサリー屋のお得意様としてよく知った間柄だ。
七夕の夜である今日も今日とて、誰かの為に奔走しているのだろう。
まあ、その一端を担った自分たちもまた、右に同じく仕事に精励であるわけだが。
カリッと飴の割れる小気味良い音を響かせ、リンゴ飴をもう一口。
竹串に刺さった姫林檎の強い酸味が、雑味ない砂糖の甘みと絶妙なマリアージュで舌を愉しませる。
一仕事終えたところでの甘味は、最高のご褒美だ。
「デートのプラン立案にプレゼントまで人任せたぁ、大丈夫かその男」
誰しも、ヒコボシにオリヒメとは依頼を出すにあたっての方便と捉えるだろう。
よもや普段は天にまします七夕の主役その本人であるなどと、どうして思い至ろうか。
「さぁ?よっぽど忙しいんじゃない?それにこちらとしては、クエスト報酬さえもらえれば問題も関係もないしね」
「それ言えてる」
少々ドライかもしれないが、リーネの言葉は至極真っ当である。
「しっかし、プレゼント用のイカしたアクセサリーって……」
少年に渡したのは、逆さのハートにサークルクロスが下がったイヤリング。
それは、色こそ違えど、リーネが今身に付けるイヤリングと同じデザインであった。
「バッチグーなチョイスでしょ?」
リーネはじにーに向かいウインクするとともに、指先でイヤリングに触れる。
逆さのハートは猪目に似て、その形容は厄を払い福を呼び込み、◯に十字で人が数多く交差、すなわち千客万来を祈願した。
それはリーネがアクセサリー屋を開いた折、そんな意図など勿論おくびにも出さず、照れを下手くそに隠して、なんか似合いそうだからと渡した代物である。
本職相手に悟られぬ筈もないと数年越しに思い至り、リンゴ飴もかくやと赤面してじにーは顔をそらす。
……というか、未だ大事に身に付けてくれているのは喜ばしいが、あらためて恋愛成就には無縁の形状ではないか?
「さてと!クエストも終わった事だし、私たちも七夕の里を楽しまなくちゃね。かくいうじにー氏は、どんなデートプランでエスコートしてくれるのかな~?」じにーの赤ら顔を覗き込むように首を伸ばし、リーネは悪戯に微笑む。
「お~っと藪蛇すぎない?少年!カムバーック!!ちょっと内緒で件のデートプランを教えてくれまいか!?」
自らの発言でこうも首が締まろうとは。
今更追いかけようと、既に少年は影も形もない。
しかしノープランなればこそ、その場の空気に身を委ね、片っ端から楽しめば良いのだ。
祭囃子に耳を傾け、揃いの狐の面を斜めにかぶったら、やきそばや綿菓子の屋台をひやかして、暗闇のボロ屋で肝を一涼み。
鳥居の連なる石段を登って、星見の台の上で二人ゆったりと舞い踊り、区切りがついたら滔々と夜空を流れる銀漢を見上げる。
「……ね、ね、何書いたの?」
「いや聞くもんじゃないっしょそれ?」
そして祭りの最後、2人が短冊に何を願ったのかは、サラサラと優しく揺れる笹の葉だけが知っている。
~完~