その身を貫いた拳の勢いに連られるまま、ドレスを剥ぎ取られるようにヤクト・メイデンドールの全身は銀色の液体と化して浜に広がった。
「必要なデータはここにある」
何故味方を、というハクギンブレイブの疑問を先取るようにアルファは呟く。
あげは自身に用はなく、彼女の持つしょうかんの術さえ分析出来ればよかったのだ。
ヤクト・メイデンドールに捕らわれここまでの道中で既に解析は完了し、その理を再現する用意は整った。摘出したヤクト・メイデンドールのコアを腹の口に押し込んで、アルファは洋上、夢幻郷に向けて再び飛翔する。
「ちぃっ!追うぞ、ケラウノス!!」
「引き続き背後より接近する飛翔体有り。この反応は……」
ドルボードの固有振動音から確かめるまでも無く、相変わらずハクトとケルビンをぶら下げたウルベアンチェイサーが木立を抜けて躍り出た。
「は~っはっはっはァ!!ここであったが百年目!ギガパレスの恨み、晴らさでおくべきか!!」
そも、件のギガパレス崩壊時においては、誘導兵器をもってしてアルファの拠点の一つを吹き飛ばし、いわば既に痛み分けしているケルビンであるが、それはそれ、これはこれなのである。
たちの悪い相手に喧嘩を売った己の不幸を呪うしかあるまい。
「スウィッチオーンヌウゥウ!!」
「ああっ!また……!砲身が限界なのに!!」
やたらと粘ちょっこい叫びと共に、魔改造ブレイブバスターキャノンが火を吹いた。
アルファはといえば一瞥することもなく、スーツの自律防御に任せるまま、多重に展開された魔力防護壁の魔法陣が光線を受け止める。
「ぬるい、ぬるい!そんなもので防げるものか!!」出会い頭の凶行は完全に失敗に終わったかに見えたが、ケルビンの高笑いは止まらない。
もとよりハクトのウルベアンチェイサーに施した魔改造は、対レイダメテスの堕とし仔を想定したものである。
ブレイブバスターキャノンの火線には、はぐれメタルの盾を砕いて作った微粒子が織り交ぜられており、盾の形は見る影も無くとも、その呪文を打ち消す効果は健在だ。
魔法陣は次第に輝きを失い、輪郭は朧となり、やがてガラス細工を地に落としたように粉々に砕け散る。
ウルベアンチェイサーに続き、木立を抜けルシナ村にドルブレイドが辿り着いたのは、まさにこの瞬間であった。
セ~クスィ~とフタバの眼前で、砕け散った防護壁に代わるように、ハクギンブレイブはケラウノスに供給したドルセリンの残量全てでもって、ブレイブバスターキャノンを受け止めた。
衝突に際し空が雷で割られたような轟音と閃光が断続的に迸る。
ようやく四方八方に千切れ飛ぶエネルギーの奔流がおさまると、超展開も解け白銀の魔装に戻った姿がそこにある。
「どうして……」
ハクトは未だ事態の全容を知らぬも、ケルビンの様子からハクギンブレイブが敵、それも恐らくは首魁を庇ったのだという事は想像がつく。
その真意を理解できず呆然とつぶやいた直下で、フタバはただまっすぐ、彼方に浮かぶ兄の姿を見つめた。
しかし果たしてその視線は、バイザーの奥の瞳と交わったかどうか。
ハクギンブレイブは浜辺の顔ぶれに一瞥もくれず、既に遠く去ったアルファを追うべくサージタウスを駆るのであった。
「……フタバが近付いていること、黙っていたな?」随伴機たるケラウノスには、フタバの位置情報が逐一観測出来ていたはずである。
「状況は悪化の一途を辿っている。あらためて、アカックブレイブに助力を仰ぐことを提案する」
ハクギンブレイブの詰問を否定も肯定もせず、ケラウノスはただ己の目論見を曝け出す。
こういう時、槍であるがゆえに表情を持たない事は、実に都合が良い。
「……僕の都合にセ~クスィ~さんを…アカックブレイブを巻き込むわけにはいかない」
ケラウノスが情報を伏せていた理由に思いが至るゆえ、ハクギンブレイブも強くは叱責できない。
自身のコンセプト、SBシリーズ28号の継戦支援だけに注力してくれればよいというのに。
本当に、誰も彼も、お節介なことだ。
自嘲的に歪んだ口元はヘルメットに隠され、誰の目にとまることもない。
しかし流石にここまでだろう。
夢幻郷、グランドラゴーンの封印の内に招かれるは、ゴルドスパインを所持するか、封印の血筋を引く竜の末裔でなくてはならない。
フタバのゴルドスパインが封印状態である以上、仮にウルベアンチェイサーで追ってきたとて、彼らは鍵を持たないのだ。
りゅーへーの存在を知る由もないハクギンブレイブは、未だアカックブレイブと共闘することのメリットを説くケラウノスの声をミュートして、目前に迫る夢幻郷を睨むのであった。
続く