「やる気があるのかね?」
鼻くそをほじっている時のような虚無を顔面に貼り付けて、ケルビンは何度目になるか分からない溜息を吐いた。
「うっせ!大きなお世話だっての!!」
いーっと歯をむき出して反論しつつ、じにーはピンクパールに魔力を込めて撃ち放つ。
今やその形態を大きく変えたヤクトメイデンドールは、ピンクパールに大穴を穿たれるも、海に小石を投げ込むが如くまたたく間に塞がり、お返しとばかりに銀の波となって押し潰さんとする。
「危ないっ!」
間一髪、ユクの引き当てた『塔』のタロットが雷を呼び、ヤクトメイデンドールに、いや、厳密には頭からヤクトメイデンドールに突き刺さったままのケラウノスマーク2に炸裂する。
避雷針の原理である。
「あビばッ!?」
すぐ近くに首まで埋まったケルビンもまたプスプスと黒煙をくゆらせる。
「貴様、わざとやっているだろう!?電撃はよさんか!」
こんななりでも機械は機械、直撃はせずともそのまま伝わった雷撃の影響で、ビタリとヤクトメイデンドールが固まった隙にじにーは安全圏へと脱した。
「う~ん、どうにも手詰まりだよね」
あげはの言葉はけして弱音ではなく、勝つための状況分析の一環である。
じにーは短剣、ユクは片手剣、そしてあげはの得物は爪。
それぞれにピンクパールやタロットといったスペシャリテを持つにせよ、はぐれメタルのような中の見えない流動体、さらには大質量の中に潜む形も分からぬコアを破壊しなくてはならない。
手札が厳しいのは如何ともしがたい事実である。
「ま~、もういっちょやってみますか」
あげははまほうの小ビンを2本一息に飲み干し、横目でじにーとユクが準備を整えたのを確かめると、ぐっと腰を落とした。
敵を睨み、両腕を広げたその姿勢は、まさしく狩りに臨む猛禽に似る。
あげはは高い木の上から舞い降りるように駆け出した。
ヤクトメイデンドールの巨体に肉薄すると、爪の妙技、サマーソルトクローを繰り出す。
宙返りに合わせ繰り出された交差する6本の斬撃は、長大な風の刃を携えてヤクトメイデンドールを細切れに斬り刻む。
無論それは、単なるサマーソルトクローでは説明がつかない仕儀である。
あげはの備える爪は、居並ぶサメの牙のように荒々しく、彼女の穏やかな人となりを知る者からすれば、一見不釣り合いに思える。
しかしそんな爪をあげはが選んだ理由は、まさにその形状にある。
爪の技に、天地雷鳴士の御業の一つ、しんくう竜巻を乗せたのだ。
牙立ったその爪に魔力を引っ掛けるイメージと、あげははさらりと言ってのけるが、誰にでも出来る芸当ではない。
「…右斜め上の方!!撃て撃て撃てっ!」
互いにストックを気にせず、なけなしのピンクパールに、正義、戦車、罪人に隠者のタロットが乱れ舞う。あげはが敵を細かく分断し、その中から結合の早い箇所にコアがあると踏み波状攻撃を加える。
目下、こちらの損耗を気にしなければ最も効果的と思われる戦法であったが、今回も失敗に終わったようだ。
「今のは惜し……いや、そうでもないな」
「腹立つ~~~ッ!……て、いや、ちょっと待って。惜しいって言った今?」
モモの雷撃をけしかけようとした寸前で、あげははケルビンの言葉に違和感を覚え踏みとどまる。
「アンタまさか……」
じにーの唇もまた、怒りからワナワナと震えた。
「ん?コアの位置なら分かっているぞ?ケラウノスマーク2が操るてっこうまじんのボディを太鼓の代わりとして音波振動を……」
3人の様子を意に介さず、ケルビンは悦に入って解説を続ける。
「じにーさんそれは流石にまずい!!」
「ステイ、ステイ!」
何故教えてくれなかったと問えば、聞かなかったからだと返ってくるだろう。
罵倒のおまけも付くかも、いや、間違いなくとても長い罵詈雑言がセットだ。
そんな流れが容易に予想出来るからこそ、無言のままにケルビンの眉間をピンクパールでブチ抜こうとするじにーを、必死に宥めるユクとあげはなのであった。 続く