「E3からF4、違うそこはG4だ。地図も読めんのか。と、F2に移動したぞ」
「我慢……我慢……」
噛み締めた奥歯は砕けんばかりであるが、それもあと少しの辛抱だ。
巨大なヤクトメイデンドールの全身を地図になぞらえて、3人はケルビンの指示のもとコアを狙う。
天地雷鳴士の御業にヒャドの系統は存在せず、先のしんくうたつまきを上乗せした時のような、敵の全身に及ぶ大規模な攻撃とはならない。
それ故に選択肢から除外していたが、コアの在り処が分かるならば、当然話は変わる。
範囲は狭くともコア周辺をまとめて凍結させることが出来れば、あとはタコメット殴りである。
じにー達の狙いに気付かぬほど、コアの演算能力は低くはない。
今や旗色が明らかに悪くなったことを察し、先までの形態変化による攻撃に加え、苦し紛れにメラミを村人めがけて放つが、所詮は悪足掻きであった。
「させないっ!」
3つの火球の射線上に割って入ったユクはその2つを刀で打ち払い、残る一つは『世界』のタロットの効果を頼みにその身で受け止める。
呪文の詠唱や形態変化のたび、ほんの一瞬ではあるが、コアの動きは止まる。
今しがた放った一発は、その隙を突き、僅かであるがコアをかすめた。
「ほらほら!余所見なんてしてっからっ!!」
ようやく敵の喉元に触れたという確信から、じにーの口角は吊り上がる。
そして、コアを縁へ縁へと追いやるように繰り返してきた攻撃が、ようやく結実の時を迎えようとしている。
「……おっと、まずい、そう来るか」
コアが至るはF1、すなわち……ケルビンの至近であった。
何かしら仕掛けてくるのは明白、然らばケルビンを盾としようと思考したのだ。
現状況下における最適解、しかしヤクトメイデンドールの唯一の誤算は、ケルビンがユク達の仲間ではないということであった。
それでも僅か、とある可能性に思い至り、あげはの手は止まる。
すなわち、まさかこれまでのケルビンの罵詈雑言の全てが、いざという時に躊躇わせないようにするためのものであったのではないか。
「いや、ないない」
「うん、ないな」
「そうね、まったく無いわ」
まあ、ケルビンにそんな殊勝な考えなどある訳がない。
ユクはもちろん、僅かな付き合いのじにーやあげはであってもそれは自明の理である。
故に逡巡の間は、コンマ1秒にも満たなかったという。
「ゴールドフィンガーっ!!」
「ちょ、待……」
「いっけええええええええええ!!!!」
ケルビンの制止の声はユクの勝ち鬨に掻き消され、あげはの突き出した爪が光り輝いた刹那、散弾のように氷の飛礫が投射された。
ヤクトメイデンドールのコアを含む一部分が、無論ケルビンとケラウノスマーク2をも巻き込
んで氷結する。
指令の途絶えたヤクトメイデンドールの構成体がザバッと流れ落ちて、コアを取り巻く氷塊と泣き別れる。そしてその上に落着するよりも早く、ピンクパールと戦車のタロットがコアを打ち貫く。
途端、針金の束で金属板を掻き毟るような悲鳴を棚引かせ、ヤクトメイデンドールは今度こそ完全に機能停止したのである。
海へ逃げるも山へ逃げるも未だ危険、しかしこれで当面、村の安全は確保できた。
今このひと時だけは、最大の功労者たる3人が気を抜くことも流石に許されるだろう。
とはいえ、氷塊の中から向けられる怨みつらみの籠もったケルビンの眼差しまでも右から左へ受け流してしまったことは、やがて大いなる災いとなって彼女らに降りかかることとなるのだが、それはまた、別のお話である。
続く