氷の領界、その大地狭しと横たわる途方もなく巨大な背骨の上を、2台のサイドカーがひた走る。
ドライバーの身に纏うマントにこびりついた赤焦げた砂とゴーグルの曇りは、彼らが今まさに炎の領界を超えてきたことを物語っていた。
生き永らえれるものならやってみせよと言わんばかりの過酷な環境、それを日常としてきたエステラはともかく、五大陸に生まれた民には酷であろう。
少し休憩を挟みましょうかと切り出すも、協力を買って出てくれた冒険者はなんのこれしきと辞退した。
「子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かびますよ。エステラさんさえよろしければ、このまま先を急ぎましょう」快活に返し、ヒッサァはハンドルを強く握り直す。
サイドカーの助手席にはそれぞれ、魔術と幾何学を混ぜ合わせたような刻印が刻まれた、大きなボックスが鎮座している。
これぞ、アストルティアの文化をナドラガンドに広めんとするエステラの活動の一環、イーサの村への慰問を行うにあたっての、秘密兵器。
魔法建築工房『OZ』の大棟梁、ロマン謹製のこのボックスは、格納した食材を外気の影響から完全に守り抜く逸品である。
そしてそこに詰まるは、アラハギーロ王国にてメロンに次ぐ特産品として研究・育成の進むゴールデンパインに、ウェナ諸島に降り注ぐ陽光を浴び赤々と育ったレモン。
そしてグランゼドーラの新鮮な卵と牛乳に、エジャルナにて買い求めたバニラビーンズと砂糖。
やがて歓声とともに出迎えられた2人は、そのまま酒場を借りて調理に取り掛かる。
バニラビーンズ、卵黄、砂糖、牛乳を沸騰させぬよう気をつけながら、溶け合うまで絶えず混ぜる。
一度火から下ろしたら、仕上がりがふんわりなめらかになるよう泡立て器でかき混ぜ、空気を含ませる。
これがアイスクリームのベース、アングレーズソースとなる。
バニラだけでは味気ない、小分けにしたアングレーズソースにはそれぞれ果汁をブレンドし、見目も鮮やかに。
あとはそれぞれ生クリームと合わせてマーブル状に織り交ぜ型に入れ、あとは最後のピースたる氷の領界の気温に任せれば、いよいよアイスクリームの出来上がりである。
「あわてないで、一列に並んでくださいね~」
完成はちょうど程よく、おやつどき。
足りるかどうかと一抹の不安もあったが、無事イーサの村の皆に行き渡り、ヒッサァとエステラもまた、酒場の主人が焼き上げてくれたワッフルコーンを器にアイスを頂く。
誕生日くらい、故郷に帰ってのんびりしようかと思わないでもなかった。
しかしながらである。
命を拒む氷の領界の過酷な環境、それこそが、今日の笑顔を生み出した。
こんな奇跡のような瞬間を味わえたのだ、誕生日の労働も悪くない。
そうしてまた一口、酸味の効いたアイスを頬張るヒッサァなのであった。
~Happy Birthday~