目的地を前にして、一同は息を飲んだ。
遥かに霞んでいた夢幻郷は今や眼前、未だその外縁は朧に揺蕩うものの、グランゼドーラ城を丸ごとエルトナ様式に落とし込んだような、古の竜が祀られるに相応しい巨大な神殿が、方方から滝のように海水を流し落としながら存在を誇示している。
やがてうっすらと目に見える程に密度の濃い魔力の帷に、すうと切り込みが入り、一同を招き入れるように結界の穴が開く。
馴れ合いはもう充分だとばかりに、ベータはウルベアンチェイサーを置き去りに、躊躇いなく夢幻郷に飛び込んだ。
「……行きます」
遅れること数秒、ハクトもまた圧倒されていた意識を引き戻し、夢幻郷の中へとウルベアンチェイサーを進ませる。
しかしながら、内部へ分け入った途端、石を積み重ねて出来た回廊はまるで生き物のように狭まり、一同はこの場でウルベアンチェイサーから降りることを余儀なくされる。
りゅーへーを抱えてセ~クスィ~が飛び降りるのを確認した後、依然マジックアームに捕らわれのらぐっちょを降ろし、ハクトもまた夢幻郷に降り立った。
兎にも角にも気になるは、ここまでの道中、桜吹雪の如く羽根を撒き散らしていたらぐっちょの身である。
「らぐっちょさん、だいじ……うわッ!?」
…ょうぶな訳はなかった。
しかし人間よく出来たもので、あまりにショッキングな光景には、脳が勝手にモザイクをかけるように出来ている。
らぐっちょの頭上、網細工状のフィルターの向こうに垣間見えるピンク色の塊から、ハクトは露骨に目を逸らした。
「いや~身体が軽くなった気がするですぞ…って、ぶえっくしょいッ!」
そりゃあまあ、言葉の通り軽くなっているだろう。
そして頭が冷えれば、くしゃみもやむを得まい。
「さぁ、急いでベーやんのあとを追うですぞ!」
やはり身軽になったからであろうか。
種族差による絶対的なコンパスの違いがあるというのに、らぐっちょはいち早くスタスタと夢幻郷の奥地へと歩みを進めてしまう。
失礼ながら、痛々しくて出来る限り視界に入って欲しくないのだが、こういう時に限ってその背中を追わねばならない。
いつもの通り、まったく気にする様子も無くらぐっちょに付き従うりゅーへーの愛の深さには、まっこと感服する他ない。
そしてりゅーへーと同じくノーリアクションを貫くセ~クスィ~も流石だなと横目を送ると、一体らぐっちょの身に何が起こったのか、そして指摘するべきなのか、諸々考えあぐねた果てに顔だけアカックなって無言でひた走る大先輩の姿があって、少しホッとするハクトなのであった。
大型ドルボードには通れぬ細道であれ、魔造術による拳に騎乗するベータには支障ない。
曲がりくねりはするが一本道、時折ひらけた所には侵入者を迎え討つべくか、りゅうきへいが群れている。しかしその誰も彼も、ベータを一瞥するもののそのまま素通りを許す。
りゅうきへいの姿はどれも所々骨が覗いているが腐敗とは異なり、その身体には例えるならば作りかけのような、本来では有り得ない綺麗な断面が覗いている。未だこの夢幻郷の主たるグランドラゴーンの覚醒が完全ではない故のことであろう。
しかしながら、りゅうきへいが襲ってこないことに別の理由を見出だしたベータは焦りを強くする。
その身体が不完全とはいえ、りゅうきへいの瞳に意思の光はある。
ベータは攻撃対象から外されているのだ。
グランドラゴーンと縁もゆかりも無い自分が何故と考えれば、姉の手による以外に答えは無い。
「ええいっ、邪魔だっ!!」
攻撃はしてこずとも数が数だ。
ただぼうっと佇み進路を塞ぐりゅうきへいの群れを岩の拳で荒々しく殴り飛ばし、奥へ奥へと突き進むベータなのであった。
続く