「さぁ!どんどんいきましょう!エントリーナン……」
ユクが半泣きで舞台袖へ捌けていくと同時、間髪入れずに始まったアナウンスを遮るように、呪文の業炎がステージ上に立ち昇る。
「じゃじゃん!集まってくれたみんな~っ!!おっ待たせ~!カルベローナの美少女トップアイドル、ここに降臨だよー!!!」
煤を棚引き火柱が消えゆくと、入れ替わるように快活な少女が舞台上で高く高く飛び上がり、頭上で束ねた赤毛を弾ませた。
涼やかなスカイブルーの水着に、よく熟れたマンゴーのような鮮烈な朱に染まるパレオがアクセントとなって、持ち前の快活さを体現しているようだ。
「じゃあ行っくよー!みんな、遅れず着いてきてね!『ラブソング探して』!!」
いつの間にか背後にずらりと並んだエンプーサがウクレレでメロディを奏で、わかめ王子がバックコーラスを務める。
誰しもが口ずさめる往年のナンバー、ウクレレの軽妙さもさることながら、常夏の季節と満員の会場にマッチした底抜けに明るいアレンジが光る。
「もっとも~~~~っと、盛り上げていこーー!!!」
サビに入る直前、更に盛り上げんと観客を煽るさなか、バーバラは客席に信じられない光景を見て目を丸くする。
ミレーユ、ハッサン、そして……レック。
潤んだ瞳に照れくさそうな笑みを浮かべる、2度と出逢えぬものと思っていた仲間たち。
夢ではなかろうか、と浮き足立って、そもそもここは夢の世界だったと思い出す。
もっと話したいことがあった。
共に行きたい場所がたくさんあった。
別れの悲しみを押し殺し、夢の世界で皆が知る明るい自分を演じてきた。
だから尚のこと、再会に涙は似合わない。
うつむき加減にギュッと瞳を閉じ、込み上げるものを押し留めてからの、バネが爆ぜたように満面の笑みでバーバラはサビに突入する。
もはや審査の必要もあるまい。
しかし熱狂とは裏腹、この日、最高潮の盛り上がりを見せる会場の隅で、暗い呟きが漏れる。
「……臭う。臭うぞ。オレが染み込ませた、墨の臭いだ」
現実と夢、2つの世界に分かたれた2本の天馬の鍵。それらが納められていた祠には、ある碑文が残る。
鍵を2つ揃えよ。
さすれば朧なる夢の世界より道は開かれ、狭間の地にて大いなる海の力に至らん。
再会を待ち焦がれていたのは、ミレーユたちだけではなかったのだ。
タイガークローが所持していた、もう一つの天馬の鍵。
そもそも、本来、夢の世界に在るはずのその鍵が、何故アストルティアに在ったのか。
「と、いうことは。持っている。持っているはずだ!なぁ、そうだろう!?」
その血走った眼が、ミレーユの背を捉える。
男は夢の世界に生まれ、現実の世界に身体を持たない。
故にもう一つの天馬の鍵を自ら回収に赴くことかなわず、断腸の思いで鍵を現実世界へ送り出したのだ。
そもそも鍵が戻る保証すらない、あまりにも分の悪い博打。
しかし男は見事、望む結果を引き当てた。
……あとはただ、奪うだけである。
ヘルパイレーツは観客然と大人しく折り畳んでいた8本の足を躍らせ、まわりが下敷きになるも構わず、高く、高く跳躍するのであった。
続く