◇◇◇海賊の職業クエストのネタバレを含みます。あらかじめご了承ください◇◇◇
「ライ、デインッ!!!」
高く掲げた銛のような槍の先端に、晴天にも関わらず雷が降り注ぎ、穂先に切り裂かれて観客席に拡散、またたく間に会場は大混乱に陥る。
「くっ…!?」
「…きゃあッ!」
2度、3度、流れ奔る雷撃のいくつかはミレーユたちを直撃した。
よろめき膝をつくミレーユ、その懐から2つの小さな鍵が転げ落ちるのを、見逃すヘルパイレーツではない。
空を蹴り一直線に滑空し、天馬の鍵を奪い去ると、回し蹴りよろしく8本足による鞭打で辺りを薙ぎ払う。「揃った!揃ったぞ!!鍵が、2つ揃った!!!」
「いけない!!……っ、くそっ!!身体が……」
同じく雷撃の1つを浴び、身動き取れないイズミは舌を打つ。
「ちょっとあんた!!なんてことするのよ!!」
無事だったバーバラが乱入者にメラミを解き放つ。
3つの炎のつぶては、それぞれ芸術的な軌道を描き逃げ惑う観客を見事に避け、ヘルパイレーツの頭部に振り注ぐが、この状況下、当然ながら威力はセーブせざるを得ず、さしたるダメージを与えられない。
ジュクジュクと焼ける顔に構わず、ヘルパイレーツが天に掲げると、禍々しい波動を放ちながら、2つの鍵は螺旋を描くように溶け混じり、深い海の深淵を煮詰めたような、もとの華美な金細工は見る影もない醜悪な1つへ変貌を遂げる。
そのまま鍵はゆっくりと半回転し、同時、ガチャリと重々しく鈍い音が響き虚空が開かれた。
先の見通せぬ虚無の中から、ズルリと這うように邪神像がまろび出る。
「……チッ!やはり海神の秘宝か!!」
ようやく痺れから立ち直ったイズミが鋭くムチを振るうが、金色に輝く禍々しい像には僅かに届かない。
蛇のように突き出された舌の上をズルリと滑り落ち、痩せ細った首を張り裂けんばかりに膨らませて、像はヘルパイレーツにごくんと呑み込まれてしまった。
「イズミさん!さっきの何あれ!?」
インパスの結果がどう見えたのかなど、何度も躓きながらも這うように駆け寄るユクの慌てふためく様を見れば、聞くまでもない。
そもそも、アレがヤバい代物であることなど百も承知だ。
イズミの目的は最初から、『海神の秘宝』の確認と回収、ないしは破壊であったのだから。
「説明はあとっ!来るよ!!」
仕返しとばかりに、ヘルパイレーツの蛸足、その4本が斧のように振り下ろされる。
如何に柔軟とはいえ、彼我の距離を考えれば届く筈がない。
根元から断絶されていたヘルパイレーツの蛸足は、まるで巨大な竜の爪が嬲ったような傷痕を浜に描き、からくも回避したイズミ達の眼前で干からびるように朽ちていく。
再び視界にとらえたヘルパイレーツの姿は、すっかり変貌を遂げていた。
「ぐわっわっわっわっ!!これか!これが海神の力か!!素晴らしい!素晴らしいぃぃぃぁああ!!!」
人の半身を生やしたタコから一変、隆々と膨れ上がった身体にノコギリのような背鰭を生やし、翡翠の鱗に覆われた魚人の姿がそこにあった。
今より数カ月前、海賊とユルールの手により秘密裏に解決された一つの事件。
その発端となったのが、他ならぬ海神の秘宝である。その際、魔法戦士団員であるゲーダムに憑依し顕現した海神の化身は、秘宝は一つではないと示唆していた。
「『天馬』ではなく、『天魔』のカギ。面白くない言葉遊びだよ、まったく」
古来アストルティアの民は、手に負えない災厄に畏怖を込めて天を冠した。
鍵が永年かけて受け継がれる中で、形も呼び名も姿を変えていったのだろう。
にも関わらずその危険性と海神の秘宝へ至る可能性を見出だし、イズミに確認と回収のクエストを下したディオーレ女王の慧眼はまこと一国の主に相応しいと讃える他ない。
ただ、一つ難を挙げるならば……
「あんなん、どうしろっていうのかね」
イズミは勇者でも盟友でも、まして魔王でもないのだ。
今の状況は自身が情にほだされた結果だ、後悔は無いし責任を取らねばという気概はあるが、如何せん、海神の化身を何とかするビジョンが皆目浮かばないイズミなのであった。
続く