◇◇◇Ver.8のネタバレを含みます◇◇◇
「皆大した怪我はないようで、何よりだ」
戦い終えて、無事だったテントの1つでココソーはキャンプに駐留するエルフのシスター、シノハゼから手当を受ける。
ココソーが何処を怪我したかといえば、勿論、おでこである。
しかし僅かに血を滲ませる程度のココソーに対し、衝突相手のくろがねの巨人はといえば木っ端微塵に砕け散っているのだ。
なるほど、これではヘルメットの必要性について、当人でなくとも疑問符が浮かばんという話である。
「ご覧の有様なので、大したお礼もできませんが……」
手当を終えると、シノハゼは懐から笹の葉の包みを差し出す。
「む?おお、これは……そうか、今はそんな時分なのだな」
ぷるりと震える白く薄っすら透き通った生地の上に、みっちりと葛で固めた丸々肥えた小豆が並ぶ。
その色と三角の形はかつて庶民には入手が困難であった氷を表し、小豆はその赤色に魔除けや邪気を払わんと願いを込めて。
夏越の祓、エルトナに伝わる風習において、半年間の穢れを払い、この先の無病息災を願って食べる、『水無月』だ。
「頂戴する」
「このキャンプは綺麗な湧き水が手に入り、物資も充実しているので……僭越ながら故郷の味を手作りしてみたのです。お口に合えば良いのですが……」
土台であるういろうの柔らかな食感を噛み締めながら、その米粉の優しい甘みの奥から覗く、記憶と異なる風味の正体を一思案。
異世界とはいえ、ドワチャッカに似た気候風土と考えれば、それはスイーツサボテンの風味と気付く。
「うむ。美味い!!」
戦いを見れば、口下手ながら刃に衣着せぬ御仁と明らかだ。
二口、三口と、きゅむっきゅむにアカリリスのように頬を膨らますココソーの姿に、シノハゼの顔もほころぶ。
そうこうしている間にも、キャンプの住人たちはテントの残骸の中から使えそうな資材を取り分け、再建を始めている。
「……たくましいな。これならば、心配もあるまい」この世界にはどれだけ滞在できるものか分からない。しかし出来る限り、露を払おう。
夏越の祓に込められた願いも胸に受け、ココソーは立ち上がる。
やがてこの地のドルセリオンを借り受け、ユルールと共に邪神へと挑むことになるのだが、それはまだ少し、先の話である。
~完~