しばしの準備ののち、くつくつと漆黒の鉄器の中で湯が踊るころ、鉄器の前に正座しぴしりと背筋を伸ばした老人は、茶笏で黄緑の粉末を掬い取り、どんぶりのような湯呑にあけた。
一匙、二匙、湯呑の底に円を描くと、柄杓で湯をすくい、掲げる程に高い位置から、しかし湯呑から飛び散らせることなく湯を注ぎ入れる。
そっと柄杓を置き、今度は茶筅を手に取ると、目にも留まらぬ早さで湯呑の中を掻き混ぜた。
「!?」
爺が猫じゃらしを振り回したら、抹茶の香りが沸き立った。
後にそっきんこはどっきんこにそう語り、大いに混乱させたという。
「うむ、あとは甘みを足すでござる」
秘蔵の黒胡麻ペーストと、たっぷりのミルクを足せば、伝説の英雄の抹茶ラテの出来上がりである。
「氷を砕くからくりの持ち合わせが無い故、これでご容赦ねがうでござるよ」
戦場に儚く散ったそっきんこの抹茶スムージーのことを、老人は気にかけていてくれたのだ。
そっきんこはゴマの香りに鼻くすぐられつつ湯呑を両手で抱え、恐る恐る一口、ずずっとすする。
「お口に合ったようでござるな。なにより、なにより」
寡黙なそっきんこであるが、その表情と飲みっぷりを見れば、そも言葉は不要である。
かくして、老人とのほろ苦い邂逅を経て、また一つ、アストルティアの食文化に対する知見を広めたそっきんこなのであった。
~完~