「よっし。回収完了!!長居は無用、帰るよ、ユク」元のしなやかなウェディの細腕が、ガラクタと化した海神の秘宝を拾い上げる。
「えっ、ああ、うん、それはそうなんだけど……」
さもありなん、海神の化身が開いた現実世界への扉は、非常にゆっくりとしたペースであるが、その輪郭を狭め始めていた。
後ろ髪を引かれる思いながら、ユクはイズミに続いて扉をくぐる。
ミレーユたちの別れの時間に、水を差すわけにはいかない。
「あ~あ、せっかく皆とまた会えたのになぁ。ほら、早く行った行った。帰れなく、なっちゃう、よ」
ミレーユたちに背を向けたバーバラ、その語尾は、涙に濡れていた。
「また……また!必ず、会いに来ます!絶対、約束ですから!!」
ミレーユもまた、堪えきれない嗚咽に声を震わせる。
「ホント?絶対だよ?……あんまり遅かったら、こっちから行っちゃうんだからね?」
「おっ、そりゃあいいや、どっちが早いか、競争だな!」
「ハッサンに負けるわけないでしょ」
「何ぉお?」
「まあまあ2人とも」
例え別れの瞬間であっても、涙は自分たちには似合わない。
故に仕方ないとはいえ、背を向けたままのさよならは、少し寂しい。
4人が4人とも、そんな思いを抱いた、その刹那。
戦いの間にすっかり太陽も眠った濡羽色の空に、大輪が咲いた。
時限着火の仕掛けとなっていたのであろう。
水着コンテストの結果発表を彩るはずだった花火が、次々と観客不在のビーチに舞い上がっていく。
鼓舞するように間断なく続く爆発音と明滅、今ならば、逆光で涙も隠れよう。
それじゃ、また。
向かいあった1人と3人は、それが明日とでもいうような気軽さで、別れの言葉をかわしたのであった。
後日、アストルティアの何処かにある薄暗い部屋の中で、老婆がぱちりと目を開く。
「……なかなかの冒険だったようだねぇ」
夢見の力でイズミたちの活躍を垣間見たグランマーズは、その身が沈み込むようなふかふかのベッドから身を起こした。
よっこいしょと呟きながら椅子にどかっと腰掛け、無事現実世界へ帰還し、今も何処か、夢の世界へ渡る術を求めて旅の途中の愛弟子の姿を、机の上の水晶球に映し出す。
遠見に気付くはずもない。
ただ真っ直ぐに空を見上げるミレーユの視線は、たまたま水晶球を覗くグランマーズにぶつかり、その胸に満ちた希望を語る。
きっと、また逢える。
この何処までも続く蒼天は、夢の世界にだって広がっているのだから。
希望を失わず清々しい表情を浮かべる愛弟子を見届けると、グランマーズは水晶球の視点を切り替え、今度は夢の世界を彷徨うゼニスの城が映し出された。
「……ほっほっ、こりゃ再会は随分と近い話かもしれないねぇ、ほっほっ」
その最奥、大事に護られた巨大な卵の天面が内から押し上げられ、ピシリと亀裂が入るのを見届けると、口角を緩めるグランマーズなのであった。
~完~