
夜のラーディス王島は不気味に静まりかえっている。聴こえるのは、遠くの通りで鳴っているコマーシャル音声や電車の走行音。そして、「ズルッ!ズルズルッ!ズルズルッ!」
「……アン?」ヒューザの頭を踏みつけようと進み出たトリケランは足を止めて耳を澄ませた。「ズルズルッ!ズルズルーッ!」近くの屋台からだ。トリケランはノレンの奥に二本の脚を見る。ということは、愚かにもこの転生モンスターの戦闘下で逃げなかった者が一人いたという事だ。「ズルズルー!」
屋台のノレンには「オスシソバ」と極太ミンチョ書きされている。「おいコラ、ウルッセーゾコラー!スッゾオラー?」トリケランは緊張感を削ぐソバすすり音を咎めた。わざとらしいほどにうるさい音である。彼はまた、転生モンスターを近くに知りながら逃げない不敵さを不快に思い、かつ、警戒心を抱いた。
ノレンが翻り、スシ・ソバのドンブリと箸を手に持ったまま、その女は街灯の下に姿をさらした。それを目にしたトリケランは絶句した。勇者の盟友だったからだ。それも、赤黒の盟友だったからである。赤黒の。
既にスシ・ソバを完食したと思しきその盟友の顔には、特徴的なメンポが装着されている。転生モンスターの間で一人として知らぬものの無い意匠、悪夢の具現。禍々しい書体で「転」「殺」のレリーフを施された、おそるべきメンポが。
「テメェ……テメェはイタチ!テメェいつからそこに……」トリケランは狼狽した。赤黒の盟友はドンブリを手に持ったままオジギした。「ドーモ、はじめましてトリケラン=サン。イタチです。おちおち食事もできないね、この街は」
「ふざけるな!」トリケランは喚いた。そしてイライラとオジギする「ドーモ、イタチ=サン。トリケランです。テメェ、どうしてここに!そして何故俺を知っている!」「状況判断よ」イタチは言い捨てた。
「あのノロシ。街中を走り回るダッシュラン。あれだけ騒いでおきながら私に理由を求めるとは、おめでたい奴ね」イタチは無感情に言った。「アンタの情報を得るのも容易い。……アンタら転生モンスターは所詮、狩られる獲物でしかないという事を理解した方がいい。転生モンスター殺すべし」
「ザッケンナコラー……」トリケランはカラテを構えた。「テメェこそ、のこのこ俺様の前に現れて、生きて帰れると思うなよ。テメェの首はバカバカしいほどの金額のインセンティブがついてるぜ。俺様のはげしいほのおを、そのツラに嫌と言うほど叩き込んでやる」
イタチもまたはかいのつるぎを構えた。そして右手の平を上向け、手招きした。「……やってみろ!」