2023-11-11 02:36:28.0 テーマ:その他
ゆうはん。76「ねぇお兄ちゃん、もしもひとつだけ願いが叶うなら……、記憶を失くして、どうやってあそこへ行けばいいのぉっていうワクワク感で冒険がしたい!」「めっちゃ分かるわそれ!」【まおぼく】
第5章 その6
※これまでのあらすじ。
せんしさん(はんらのまっちょ せいかく:ねっけつ)が
なかまにくわわった!
しかし!
ゆうしゃは にげられない!
と、
「さぁ、勇者さん着いたぞぉ!」
戦士さんに連れられて、やって来たのは街はずれの高台だ。
丘とも言えるこの場所からは辺りが良く見渡せた。
城も街も、その向こうに海まで見える。
「ひゃ~、いい眺めだな~」
結構近かったんだな、海。
最後に行ったのはいつだたっけな、海。確か妹にねだられて行ったっけな、海。あいつすぐ迷子になるから大変だったよなぁ、海。あの頃はまだ人混みも苦手じゃなかったよな、海。帰りに潜って捕まえたよなぁ、うに。そんで浅瀬で指挟まれたよなぁ、カニ。
そんなどーでもいいことを思い出している俺だったが、ふいに戦士さんが指差す。
「勇者さん、あれが見えるかい?」
沖合にある小島の中央、ひと際目立つ建物があった。
「あれは……?」
「魔王城さ」
切り立った山々に囲まれ何者も寄せ付けず、上空は常に黒々とした暗雲で覆われ、禍々しい雰囲気を纏う古城。ただならぬ威圧感、全てを恨み憎む負の感情を持って、今にもこの世界に襲い掛かって来そうな気配すらある。
目を逸らすことも出来ず、その場で立ち尽くすのみの俺だったが、
「あれが……魔王城? ……魔王の住処……てゆーか……」
「そうだ」
頷く戦士さん。
そして俺は、
「近くねッ?」
「それなーぁ。近いよなぁ。はっはっはー!」
「え、魔王だよね? 魔物の大将だよね? こっから見えるじゃん! 目と鼻の先じゃん!」
さっき言ってたよなアンタ、――しかし世界の人々は未だ魔王の存在すら知らず――とかって。あんなに近くて不気味な感じ出てンだから、みんな気付くだろ、フツー?
「そうだ勇者さん。キミの目的である魔王はあそこにいるのだ!」
「あ、そぉっスか」
なぁんか拍子抜けしちゃったなー。
「いいかい勇者さん。人には生まれながらにしてそれぞれの、それぞれにしか出来ない使命がある。魔王を倒す、それは勇者であるキミにしか出来ないとこなんだ」
諭すように語りかける戦士さん。このヒト、根っこの所は優しいんだな、たぶんきっと。
それはそうとして。
俺に何のチカラがあると言うのだろうか。初期城周辺の雑魚にも負けるンだぞ?
だけど、俺は思い出す。
確かあの日、妹が言っていたっけな。「あたし、勇者になる!」とか「勇者と言ったら魔王退治よ」とか。
もしかしたら、妹の意思が今のこの現状を作り出したのかもしれない。
勇者になったこの俺が魔王を倒せたら、何かが変わるのか?
この世界は終わるのか?
俺はまた妹に、会えるのか?
それならば、
「よし。じゃぁ行くか。魔王退治に」
「そうそう! それでこそ勇者さんだぁ! そうこなくっちゃなぁ、はっはっはー!」
まぁ、あんな目の前にいるんだから、さっさと乗り込んで、とっととやっつけちまおう。
……と、そんな甘い考えをしていた時がこの俺にもありますたw
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/