2023-12-03 03:17:53.0 2023-12-04 10:35:05.0テーマ:その他
ゆうはん。85「ふぃ~、今回も強敵だったよ、お兄ちゃん」「え、何がよ?」「文字数制限という強ボスよ」「何と戦ってるンだ、オマエはッ?」【まおぼく】
第5章 その15
そこは大きなお城だった。
でも人々からは呪われた城と呼ばれている。
中はもぬけの殻。誰もいない。しんと静まり返っている。それがとても不気味だ。
噂では、ここのお姫様が悪党にさらわれたとか、魔物が攻めて来てみんなで逃げ出したとか、とにかくある時からこつ然と、誰も居なくなってしまったらしい。
でもこのお城の地下には今も悪魔が住みついていて、しかも、その親玉はなんと巨大な竜!
だから、あたしはやって来たんだ。
だいじょうぶ、あたしが負けるもんか。
ちかくのほこらで、ちゃんとおいのりも済ませてきたし。
王の間の玉座があった辺りに、地下への階段が続いてる。
たぶん、魔物が壊して侵入したのか、ぽっかりと大きな穴が空いている。
あたしは慎重に階段を降りていく。
は~、ドキドキするよぅ。
でも、大丈夫、だいじょうぶ。
あたしは心で繰り返す。なんて言うか、そう……、高鳴る胸の内が恐怖だったとしても、全身を奮い立たせるのは、いつだって勇気だよ。
進め、あたし!
ふと気付いたとき、あたしはどこの誰だかも覚えていなかった。
あたしは小さな孤児院で生まれ、育ち、暮らしていた、そういうことになっていた。
お掃除洗濯食事の準備、小さな子供たちの世話、お買い物、お手伝い、毎日そんなことの繰り返しで、平凡だけど退屈な日々だった。
ある時、孤児院のみんなで遠足に行ったんだ。
ついつい街から離れて遠くまで出掛けてしまい、案の定、あたしたちは魔物に襲われた。
もちろん、みんなには戦うすべがない。
そんな中で、あたしより年上のお姉さまが護身用にと剣を持って来ていた。でもお姉さまは震えて動けなかったんだ。
だから、あたしがやるしかないって、思ったの。
あたしは初めて剣を手にした。
剣を使うのも初めてだったけど、自然と身体が動いて、あたしは魔物たちを蹴散らしていたんだ。
その時わかったの。
これだ、これがあたしの使命だったんだ!
みんなを守って戦うこと。
あたしは――、勇者だ!
「嘘ぉ、また行き止まりぃッ?」
突き当りの小部屋で道が途絶えている。
随分もぐったと思ったら、迷路みたいにぐにゃぐだった。
なにここ、大迷宮?
あたし戦うのは得意なんだけど、道覚えるのとか苦手なんよねぇ。はぁ、困るわぁ。
あたしは何気なく壁を背にしてもたれかかった。
ぽちっ!
「ん? 何の音?」
と、
ぐごごごごご……ッ!
なんと!
わなが はつどう!
てんじょうが おちてきた!
「ちょいちょいちょーい! 嘘でしょッ? 嫌ぁああッ!」
迫りくる天井に、あたしは咄嗟にバンザイして両手で抑える。
「いやいやいやいや、無理むり無理むりだからぁッ!」
ぐごごごごご……ッ! っと、物凄いチカラで、女のあたしにそれが止められるワケもなく、こんなの押しつぶされるのも時間の問題ぢゃん!
「いやぁーッ! だれか、誰か助けて~ぇッ!」
あたしは必死で叫んだ。
こんなとこに誰もいるワケがないってのに。
ははは、なんとマヌケな勇者の最期なんだろ、あたし。
「てか、抑えようとしないで、最初から逃げ出せば良かったんじゃ?」
「は……? 誰?」
よいしょっと言って、その人はいつの間にかあたしの隣に来て同じようにバンザイの恰好で天井を支えた。
「じゃ、このスキに抜け出して。あ、俺の荷物、向こうにあるから、ちゃんと持っててな」
「え……、あっ、は、はいッ!」
ワケも分からず、とりあえず、あたしは部屋から抜け出した。
「た、助かった~ぁ」
あたしは通路にへたり込んで、安堵の溜息をつく。
いまも腕がしびれて動かない。
てゆーか。
え、あのヒトは……?
あたしが振り返ったその瞬間、
ごおおおおおん……ッ!
「え、ウソぉ……!」
轟音と共に天井だったものが部屋を完全に押しつぶした。
わずかな隙間から、じわり、なんか赤い液体が……!
「……ばたんきゅ~」
さすがに気を失っちゃうよ、あたし。
「おい、大丈夫か?」
「……はッ! ここはドコ? あたしはダレ? って、あ、アンタはぁ――ッ?」
ええええ……?
さっき、そっちの部屋で天井に押しつぶされたはずの、男の人が、そこにいるんですけどぉーッ?
で、そのヒト、
「あ、俺、死んでも大丈夫なんだわ」
ナニソレどゆことーッ?
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/