2023-12-10 23:39:34.0 テーマ:その他
ゆうはん。87「そー言えば、自分から誘うことってほぼないよね」「だいたい強制加入か、起き上がるのを待つ一方だよな」「総じて引っ込み思案なのよね、あたしたちって」【まおぼく】
第5章 その17
そのヒトの強さは本物だった。
影に潜んでいた魔物に気付く観察力、それをあっという間に退治してしまった戦闘力。その華奢な腕のどこにあんなチカラが秘められているんだろう。まるで剣士というより武術家のような身のこなしだ。きっと彼はこれまでにいくつもの修羅場を乗り越えて来た、そんな気がするんだ。これ、あたしの勘ね。
ここまであたしは真っ向からの戦いには一度も負けたことがない。自慢じゃないけど。
あたしはどんな武器でも使うことが出来るんだ。あたしが武器を選ぶんじゃない、武器があたしを選んでくれるんだ。剣はもちろん、槍、斧、鞭、ハンマー、ブーメラン……どんな武器もあたしに使ってもらいたがっている。武器の声を聞けば、あたしが百パーセントのチカラを出してあげる。あたしは、勇者だから。
そんなあたしがピンチになったときに彼は現れた。これってたぶん、運命なんだ。
そう、このヒトとあたしが組めば、天下無敵だよ。こんな逸材、逃すわけにはいかないよね。
だからあたし――、決めた。
「ねぇ、アンタ。思ったより強いんだね。どぉ、あたしの仲間にならない? その強さ、勇者であるあたしに預けてみ――、
「イヤです」
「食い気味に断られただとーぅッ?」
あたし、ショーック!
あれおかしいな。こんなはずじゃなかったのに。
でも、めげるな、あたし。
「なんでよ、せっかく勇者のお誘いなんだよぉ? 仲間になるでしょ、フツー?」
「いえ、結構です」
断固拒否となッ?
ちっ、あたしを舐めンなよぉっ!
こうなったら勇者の勧誘スキルを発動するしかッ!
「まぁまぁ、ここは一回落ち着きましょ。ちょっと聞いてくれる? いい? よーく考えてね。もしもアンタ、ここであたしの仲間になっておけば、この先あたしが世界を救ったときには、あたしが世界の半分をあんたにも、あげ――、
「それじゃぁ先を急ぎますので失礼致します」
一礼をして敬語で立ち去ろうとする、彼。
って、
「ちょいちょいちょいちょーい! せめて最後まで言わせてよ~ぉッ!」
ガシぃッと、彼の腰辺りにしがみ付く、あたし。
「急に他人行儀って! そこまで嫌か? どうしてもダメかッ?」
でも彼はお構いなしに歩き出す。
あたしはぴぃぴぃわめき散らして、
「こんな迷路みたいなダンジョンなんだよ? ひとりじゃお互いに危ないでしょ! せっかく出会えたんだし、目的が同じなんだから、一緒に行くべきでしょうがぁああああッ!」
アレ? なんでこんなに必死になってンだろ、あたし。
しばらくずるずるとあたしは彼に引きずられる。
やがて彼はピタっと立ち止まった。そしてこっちを向きもせずに、
「俺には、……仲間は、もう、必要ない」
「え……っ?」
なんだろ、この感じ。胸がざわっとした。
あたしが不思議に思ったその一瞬、
「――足手まといは邪魔になるだけだから」
「!」
え、ナニソレ……?
「悪いけど、これ以上、俺に関わらないでくれ。どうしても行くというのなら、勝手にひとりで行けばいい。キミがどうなろうと、俺には関係ない」
冷たく言い放った、そのヒト。
はあああッ?
なにコイツ。あたしは、むしょーに腹が立って来た!
「アンタねぇ、ちょっとばかし強いからって何様なんッ? 関係ないってなにさ!」
彼の背に向け、あたしは叫ぶ。
「だいだい、アンタおかしいから! アンタ、あたしの目の前で一回死んでるんだよね。にもかかわらずノコノコ復活してくるとか、そんなの変じゃん、フツーじゃないよ、絶対!」
「…………」
何も言わない、彼。
「このゾンビヤロ~~~ぉッ!」
辺りにあたしの叫びがこだました。
言うだけ言って、それからあたしは逆方向にずんずん進んだ。振り返りもせずに。
もう知らないもんねッ、べーっだッ!
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/