「転職」が意味する世界観を説明できる人はいないでしょう。
世界観に忠実であることは重要である一方、世界観から外れたデフォルメも必要になります。
世界観の再現が技術的に難しかったり、ゲーム化するには不向きな世界観だったり、明確な理由があればデフォルメするべきでしょう。
例えば、コマンド方式の戦闘システムは、空想の世界にジックリ浸ることを優先するために必要なデフォルメです。
そのためには、反射神経や手先の器用さ等によって結果が左右されないよう、リアルタイム性を排除する必要があります。
つまり、コマンド方式はそのジャンルとしての要求であり、リアルタイム性を楽しみたい人向けの別ジャンルと住み分けできています。
逆に、明確な理由が無い場合は、世界観に忠実であるべきです。
何故なら、世界観から外れていることを認識したプレイヤーの意識が現実世界に引き戻されてしまうからです。
もちろん、必要な範囲のデフォルメに対して、脳内補完で補う想像力をある程度要求することは止むを得ないことです。
しかし、想像力に100%頼るならばゲームは必要ありません。
プレイ中に不必要なデフォルメを何度も認識させられると興ざめになります。
だから、デフォルメは必要最小限度に抑えるべきです。
しかし、ゲームでの不必要なデフォルメは非常に多く、ドラクエも例外ではありません。
製作者自身が、世界観とデフォルメされたシステムを区別できていないことも良くあります。
良くあるケースは、デフォルメされたゲームを遊んでいて、そのデフォルメされたシステムをそのゲームの世界観だと誤認した人が、製作者になった場合でしょう。
漫画や小説などでもそのケースは良く見られます。
「転職」に話を戻します。
そもそも、「職業」(英語ではclass)とは何でしょうか。
例えば、「魔法使い」は、魔法ばかり修行してきて、今後も魔法ばかり修行する人を想定しています。
欧米で良くあるclassのNINJAは、忍術ばかり修行してきて、今後も忍術ばかり修行する人を想定しています。
つまり、「職業」とは、そのキャラクターの生き様によって反映される得意分野と不得意分野を示すパラメータです。
それを自由に変更できるようでは、世界観が無茶苦茶になります。
一方で、剣も魔法の同時修行や剣を極めた後に魔法を習う等の自由度が制限されることへの不満もあるでしょう。
「魔法戦士」のような掛け持ち「職業」や、「転職」システムは、その不満に対する一定の回答となります。
ドラクエⅢの「転職」システムは、かろうじてその回答の範囲に留まるものでしょう。
一方で、ドラクエⅩの「転職」システムは、必要なデフォルメの範囲を逸脱しています。
これは、世界観とデフォルメの区別がついていない典型例なのでしょう。
ドラクエⅩの「転職」システムが世界観と全く合わないことは言うまでもありません。
「転職」前はひ弱な体だったのに「転職」後は頑丈な体になるとか。
「転職」前に習得した魔法が「転職」後には使えなくなるとか。
このシステムを世界観で説明するのは困難でしょう。
また、デフォルメの必要性も乏しく、単に育成を面倒にしているだけです。
直感的な分かりやすさが「職業」システムのメリットなのに、ドラクエⅩではそのメリットを完全に潰しています。
ドラクエⅩでは、他の「職業」での育成結果が別の「職業」に反映できるかどうか一貫性に欠けます。
一部例外を除くパッシブスキルは他の「職業」に反映されます。
そのため、全ての「職業」を育成せざるを得ません。
一方で、パッシブスキル以外の育成結果は「転職」すると全て無駄になります。
これでは、単に育成の時間と手間を増やしただけでしょう。
そもそも、スキルシステムを採用しているなら「職業」の概念は必要ありません。
鍛えたい能力に合わせた様々なスキルを用意すれば良いだけです。
「魔法使い」にしたいなら魔法系のスキルを習得すれば良いだけです。
「戦士」にしたいなら戦士系のスキルを習得すれば良いだけです。
どうしても「職業」の概念を残したいなら、認定制にすれば良いだけです。
例えば、一定の条件を満たせば「魔法使いLv1」と認定するとか。
尚、スキルシステムも一種のデフォルメです。
魔法系のスキルにスキルポイントを割り振れば、魔法を修行したことするわけです。
これを世界観に忠実にしようとすると、システムが複雑になり、かつ、プレイヤー側の育成計画も面倒になります。
スキルシステムは、それを避けるための必要なデフォルメです。
今後、気が向いたら、職人とバザー、耐性、移動干渉、中途半端なリアルタイム戦闘についても説明しようと思います。