ジュレット住宅ジャングル地区、晴れ渡る日は視界良好なこの地区も霧が出るとその様子は一変し住宅街にもかかわらず未開の雰囲気をかもし出す。
そんな霧に包まれた住宅街の一角に白い建物がそびえていた。
アストルティア診療内科
この病院の主であるドワーフの女医はいつものように机にペンをトントンさせながらつぶやいていた。
「今日も暇ねぇ~・・・」
この地区に病院を開設したのはいいが、一向に患者がこない。
近年では大抵の怪我は冒険者自らが回復魔法で治療してしまうが病気はまた別物、病気は魔法では直せないので病院の需要はそこそこあるはずなのだが立地の問題のせいか患者が思うように足を運んでくれない。
本当は地元ガタラで開院しようとも思ったが、ジュレットでこのありさまでは過疎化が進んでいるガタラ住宅では目も当てられないありさまになっていただろう。
「雨まで降ってきちゃって・・・今日はもう患者さん来ないわね。」
タラコと名づけたピンクのブタと戯れながら軽くため息をついた時、
ピンポ~ン
不意に診療所のベルが鳴った。
「あら、こんな日にめずらしい。はぁ~い、どうぞ~。」
雨の中現れたのは冒険者と思わしき一人のウェディだった。
「すいません、頭が痛くて・・・。」
彼は青い顔(といっても元々肌が青いのでその区別はわからない)で訴えてきたので、
「では診察するので診察室の方へ。」
と招きいれた。
「症状はいつからでしょうか?」
彼はしばらく考え込んで、
「もうだいぶ前からでしょうか・・」
彼が症状を細かく説明している間、なるほど なるほど とペンを走らせる女医 うな院長は診察を続けた。
「あなたの症状の原因がわかりました。」
長年頭痛に悩まされていたウェディの青年が顔を輝かせた。
「ほ、本当ですかっ!原因はなんでしょう!?」
うな院長はおもむろにペンを置き真剣な顔で彼に伝えた。
「どうやらバカが原因なようですね・・・。」
「えっ?」
青年は悩んだ、なんとバカが原因で長年頭痛に悩まされていたのか・・・。そんなことにも気づかないなんて自分は本当にバカだ・・・。
「でも安心してください、ちゃんとバカに効くお薬はありますよ。」
「本当ですかっ!ぜひお願いしますっ!!」
うな院長は引き出しから一方は注射器、もう一方はカプセル型の薬のようなものを取り出してきた。
「では、注射とお尻から入れる薬とどちらがいいですか?」
「えっ?」
青年は考えた、注射は大嫌いだがお尻の方は精神的にもっとイヤだった。迷わず、
「ちゅっ、注射で・・・!」
「ではその診察台の上にうつぶせになってお尻を出してください。」
「えっ!注射もお尻なんですかっ!!」
注射の先を指ではじきながらうな院長は答えた。
「ええ、でもこの注射打ち所を間違うとしばらく便座に座れなくなるので動かないでくださいね。」
しばらくして泣きながらお尻を押さえたウェディの青年が診療所から出て行く姿を多数の住人が目撃していた。最終的に彼が選んだ治療法は定かではない。
この病院が流行らないのはもっと別の要因があるのかもしれない。
そんなことは露とも考えず、いつの間にか雨もやんで晴れ渡った空の下、うな院長はもう一つのペット、ニードルマンのワラ人形と共に散歩に出かけたのであった。
(続く)