「・・・あっつい・・・。」
カオルは手にした扇をパタパタとあおいでいた。
ツトムは薬剤を調合しながら背中の薄い羽を小刻みに震わせている、エルフ特有の体温調節の現象だ。
「ここは元々湿度の高い場所だからねぇ~、ジメジメは仕方ないよね。」
うな院長はアイスコーヒーを一気にあおりながら額の汗を拭った。
「このくらいの暑さでだらしないわね。」
元来暑さに強いカズコはカオルを見るや肩をすくめた。
「誰かさんが暑苦しいせいで余計暑く感じるんじゃないのぉ~?」
カオルがイヤミをたっぷり込めて言い放つ。
「あら?暑苦しいって一体誰のことかしらね。」
ほほほっと頬に手を添えて笑うカズコの額にはすでに青筋が立っている。
「た、頼むからここでまたドンパチはやめてよねっ!」
二人は仲がいいときはいいがケンカをすると中々収集がつかない、うなが即座に止めに入ろうとすると、
「ちょっと一服やってくる。」
カオルが先に折れた。
キセルをくわえて深く深呼吸する、やがて一息ついたカオルはちょうど日陰のあるベンチに腰を落ち着かせた。
こんなクソ暑い中、カズコとドンパチする気にもなれない。
しかし本当に今日はまとわりつくような暑さだ、このままうるわし海岸まで行って一泳ぎしてくるか・・・。
そんなことを考えながら紫煙を吐き出しているとかすかに気配を感じた。
「ん?」
本当にかすかな気配だったが次の瞬間にはそれは確信へと変わった。
「うみゃーーーーーん!」
突然飛び出したそれはカオルめがけて突っ込んできた。
「うわっ!!」
咄嗟にかわす。
カオルに突っ込んできた謎の物体はベロニャーゴだった。ベロニャーゴは猫らしく体勢を整えると再びカオルに突進してくる。
「ひっ!」
ウェディは猫嫌いが多い、カオルも例にもれず猫嫌いであった。
ベロニャーゴが突進してくる中、カオルは思わず手にした扇を閃かせた。
「扇の舞!」
考えるよりも先にカラダが反応していた。
「にゃああぁぁぁ~~~~ん・・・・」
ベロニャーゴは吹っ飛ばされた。
「どうしたのっ!」
外の騒ぎを聞きつけてうな達が飛び出してきた。
そこには荒い息をつくカオルとだらしなく伸びているベロニャーゴの姿があった。
「こ、こいつがいきなり襲ってきて・・・。」
カオルが説明する前にうなが青ざめて悲鳴をあげる。
「なんてことをしてくれたんだいっ!この子はこの地区の会長さんのペットじゃないかっ!!」
一同 えっ? という顔になる。
「会長さんににらまれたらここで働けなくなるだろ~~~!早く手当てしなきゃっ!」
そう言ってうなとツトムはこの猫の治療にとりかかかった。
カズコはカオルに耳打ちする。
「この猫、誰にでもじゃれてくるのよ。ただ元々モンスターだから力も強いしみんな迷惑してるんだけど、会長さんのとこの子だからみんな強く言えなくてね。」
「・・・ああ、そうなんだ。てっきり迷いモンスターかと・・・。」
まったく迷惑な話だ、鎖にでもつないでおけばいいのに。
しばらくして手当ての終えた猫はうなの手によって飼い主に返された、もちろん謝罪付きで・・・。
お茶を注ぐカズコは楽しそうにカオルを見やる。
「やっぱりアンタってウェディよね~~~。猫が嫌いなのね。」
「ふんっ!」
カオルはいつも以上にキセルをふかしている。
「これはいい弱味ができたわぁ~~~。今度はこれでいきましょw」
「ふざけんなっ!この病院に猫連れてきたら殺すっ!!!」
「おほほほほっいいわよぉ~~~~!かかってらっしゃいっ!!!!」
「おまえらや~め~ろ~よ~~~~っ!」
結局二人は病院内でドンパチやるはめになる、ツトムは早々と避難していた。
今日は長くなりそうだな・・・うなの深いため息がこぼれた。
(続く)