高3になると妹も受験生になりもっと忙しくなったので893息子を観察すること自体が減った。
でも少し情報も入ってきて、どうやら彼は就職せず進学するらしいと噂で知った。
彼の所属するクラスは進学よりも就職が多かったのだが彼は本格的に勉強に目覚めたようだ。
妹も陰ながら応援していた。
ある日、妹が図書室で勉強していると893息子がなんかの問題集を探していた。
妹はその問題集のありかを知っていたので去り際に、
それならそっちのコーナーにあるよ
と教えてあげた。
893息子はありがとうございますと言ってそのコーナーに向かっていった。
これが彼らの最初で最後の会話だった。
季節はめぐり受験も終わり、妹は開放感からヒャッハー!状態で卒業式を迎えた。
保護者席を見回すとイヤでも目立つあのカタギに見えない格好の親父を見つけた。
相変わらずカタギに見えないその親父は始終満面の笑みであった。
そりゃそうだよね
3年前に高校にいけたってだけでも喜んでいたのにさらに進学したんだから
893息子は建築系の学校に進学することになったらしいと妹から最後の報告を受けた
大学か専門かまではわからなかったけど彼はちゃんと未来を勝ち取ったのだ
卒業式の彼はちゃんと制服を着こなし立派に卒業証書を受け取っていた
入学時の金髪ずりパンピアス少年と同一人物とは思えないくらいの成長っぷりだったという
彼が名前を読み上げられたとき、妹はそこで初めて彼の本名を知った
こうして妹の3年間にわたる人間観察は終わりを迎える
最後に893風親父と893息子の去っていく背中を見つけながら妹は思わずつぶやいていたという
ケンジお前面白かったよ、がんばれよ
私はこの出来事で人はどんなところで繋がっているのかわからないものだと改めて思う。
例えばいつだったか町で一緒に出かけてる時に、さっきすれ違ったおじさん毎朝通勤で使うバス亭でよく一緒になるんだよ。
なんて話しててそのときはほ~んって感じで聞いてたんだけど確かに全然知らん人だけど毎日顔合わせるとそれが当たり前になってなんか親近感まで湧いてくることもあるかもしれないよね。
そんである日を境に突然見なくなると あいつ最近みないけどどうしたんだろう・・・ なんて。
当の見なくなった本人はそんなこと知らん奴に心配されてるなんて露ほども思ってないんだけどねw
いつも公園の同じベンチにすわってるおじいちゃん、いつも同じ道ですれ違うOL、いつも同じ電車の向かいの席に座るサラリーマンのおっさん、いつも仕事場のビルで清掃してるおばちゃん、いつも寄ってるコンビニでバイトしてるにぃちゃん・・・・・。
あなたが見ている人たちがあなたの知らないところで話題にしたり心配したりされてたりとしているのかもしれません
このゲームだってデータ上ではあるけどそんな感じあるよね
あいついつもここで裁縫してるな
あいついつもここの酒場にいるよな
あいついつもここで踊ってるよな
とか
それで見なくなるとああついに引退したのかなと哀愁まで勝手に漂ってくるとか
そう考えるとそんなに孤独ではないのかもしれないとポジティブに考えることもできるよね
妹がケンジくんの話をしてくれたのもこんなとても暖かい日だったのでなんとなく思い出して綴ってみた
終わり