うなのアストルティア日記96話(挨拶)
「おとーさん、来月彼が挨拶しにくるって。」
刺身をつまみながら晩酌していた父は ふ~ん と生返事していた。ボクがお見合いをやってお付き合いしていることまでは知っている。
「来月のいつくらいかね?」
えーと ボクは彼と決めた日時を伝えた。
「一週間後」
「一週間!?」
父は口に運んでいた刺身を取り落とす。
「今日は2/28ですよ?リッパな来月じゃないですか。」
あっはっはっ なんてボクは笑って見せたりする。
「あ、ついでに言うとボクの誕生日には入籍したいって。」
親のとこに挨拶に来て一ヶ月後には入籍するということである。
「にゅ、入籍!?」
刺身をボトボト落っことしてちっとも口に運べていない。
「もう、お父さんさっきから汚いから箸を置いたらどうです?」
刺身を落とすたびにテーブルを拭いていた母に注意された。
あきらかに動揺している・・・。
「相手にはおとーさんが言ってた物も持たせてくるからちゃんと受け取ってね」
すると父は はて? という顔をして、
「なんだったかな?」
・・・こいつ忘れてやがる。父親が酒飲んでる時に言った言葉は大抵覚えてないので致し方ないが・・・。
「とりあえず受け取ってくれればいいよ・・・。」
ソワソワする父を置いてボクは部屋を出て行った。
約束の日、ボクらは仕事を早めの切り上げて待ち合わせ場所で落ち合った。
彼はビシッとスーツを着こなし手には大きな桐の箱を持っていた。
「ドワチャカ産 火竜の火酒 気に入ってくれるかな?」
「そんないいお酒持ってきてくれたのぉ~!探すの大変だったでしょう?」
家に着く予定時刻は午後7時だったが予定より早く着けそうだ、ボクは妹にメールし6時のバスに乗り込んだ。
一方、うな家では・・・・。
母は父親の故郷である郷料理を振舞うため大忙しである。
父は落ち着かない様子で無意識にポルカのリズムを刻んでしまう。父親の一家は純ドワーフのレンジャー家系で進んだ職は違えども体が勝手に動いてしまうらしい。
「まだこないのか!?」
父は妹につめよる。
「6時のバスに乗るって。」
そうかと言って自室に戻っていったが数分後、
「もう6時だぞっ!どうなっとるんだ!!」
「6時に着くんじゃなくて6時のバスに乗るって言ったでしょ!そんなにポルカ発動してんならイーター狩りにでも行ってくれば!!さぞかし重宝されるでしょうよ!!!」
もはや必殺チャージしまくりの父はポルカが止まらない。
「お父さんのポルカが止まらないからアンタ一緒にいてあげなさいな。」
母にたしなめられて妹はしぶしぶ父と一緒にいることになった。
ピンポ~ン
まもなく玄関のチャイムが響いた。
(続く)