私とマキちゃんはお気に入りのラーメン屋へ向かう途中、にんにくの影響で車内が爆笑に包まれる小さな事件が発生。その後、店でラーメンを堪能しながら軽口を叩き合い、笑い疲れたマキちゃんの提案でカラオケへ行くことに。次なる目的地に向かう二人の姿があった。
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目的のカラオケに到着した私たちは、手際よく受付を済ませ、個室に滑り込んだ。ドアを閉めるや否や、マキがリモコンを手に取り、何の迷いもなく曲を入れる。そのジャンルは、相も変わらずヘビメタだ。
「ほんと好きだよね、それ。しかも聞いたときないやつじゃん」
私は半ば呆れながらも笑みを浮かべた。正直、ヘビメタの良さなんてちっとも分からない。ただ、歌い始めたときのマキの顔、それが面白すぎてつい笑ってしまう。
マキがマイクを握り、歌い出す。顔の表情がぐしゃぐしゃに崩れ、動きもどこか壊れた人形のようだ。ヘドバンに合わせた腕の振りが妙にリズミカルで、つい堪えきれず吹き出してしまう。
「あははっ、なにそれ!ウケる!」
私が腹を抱えて笑っているのを見て、マキはさらに動きをエスカレートさせた。なんというか、完全に振り切れている。
「はっはっはっ!」
声にならない笑いが私の喉を突き抜け、ついには涙が止まらなくなる。笑いすぎて頬が痛い。
一曲終わり、マキは満足げに息を吐いた。
「ふぅ~、気持ちいい!」
その表情には、一仕事終えたような達成感が満ちている。
だが、そんな雰囲気を打ち消すように、私は静かに言葉を切り出した。
「で、何があったの?」
マキは一瞬目を伏せ、少し間をおいて語り始めた。
マキの話
掻い摘むと、こういうことだったらしい。
仕事で新人を指導する役を任され、最初は順調だった。だが、関係のない先輩が「新人教育」と称して割り込んできたのだという。上司に相談しても、「あの人はどうにもならないから」と諦めを促される始末。結局、新人は退職代行を利用して会社を去ったそうだ。
「先輩ってさ、古株らしいんだけど、昔から問題起こしてるみたいでね……」
さらに不運なことに、最近その先輩と社内で鉢合わせてしまったマキ。挨拶を交わす間もなく、指導方法をあれこれ指摘され、さらには説教までされる始末だったという。
「マキちゃん、それはキツいな……」
私は心から同情した。
その後私の話もした。
「実はさ、似たような人、私の前の職場にもいたんだよ。」
そう切り出して、私も自分の経験を語った。
「若い子を捕まえては『俺の言うことは正しい』みたいな権幕て説教するタイプでさ。『人生とは○○だ』みたいな、【大多数が一度は行きつくであろうごく当たり前な答え】を得意げに語るの。」
マキは頷きながら、「いるいる、そういうの!」と相槌を打った。
「慕われることもなく尊敬されることもなく、剰えその現実をを認めることもできず、気が付けば【年下相手にイキる万年平の老害ナルシスト】になってたわけよ。」
話しながら当時の情景が浮かんで、思わず苦笑した。
その後、私たちは交互に愚痴をこぼし合った。マキが会社での不満を語れば、私は過去の体験を思い出して笑いに変えた。結局、私は一曲も歌うことなく、カラオケの時間が終わった。
第5章へ続く