『2018/5/5』の日誌が冒険編(1)になります。
『2018/5/6』に(2)があります。
こちらは1ユーザー、1読者の妄想創作作品です。
公式の作品と齟齬があると思われます。
ほぼほぼ自己満足です!
◆◆◆『怨楽のしらべ3 追及者の過ち』◆◆◆
さてさて。モンスター達を退けた一行だが、先ほどの太鼓の正体は依然不明のままである。
「残骸らしきものすら見当たらないなー」
魔物達が集っていた場所に戻ってきたが、収穫が得られずクレイが肩を落とす。
「気にはなるが…マルテラトもいるんだ。そろそろ戻った方が…」
周辺を警戒するドワ男が、足音に反応して視線を向けると、周辺を探りに行ったシャクラが手招きしている。
「廃屋…ですか?」
案内された場所には半分ほど朽ちかけた家屋が、ひっそりと佇んでいた。
「中をみてみりゃ、無関係とは思えんぞ」
言われるままに足を踏み入れた三人は、そこかしこに散らばった楽器の数に圧倒される。
作りかけの物、壊れた物、素人目にも一流とわかるもの。
「琴に筝に琵琶、篠笛や尺八…鼓に太鼓も…どうしてこんなに」
恐る恐る形が残っている笛を手に取ったマルテラトは、目を見開いて硬直する。
「この紋は…わたしの家の……」
「三葉楽人に使われるほどの道具もあるとなると、こりゃますます天地雷鳴士の仕事をせにゃならんかのう」
少女の呟きにシャクラは確信を得たようだった。
「つくも神?」
「長い年月を経て器物に邪気が宿り怪異を起こす事があるんだ。怨霊にも似たそれを鎮めるのは、天地雷鳴士の仕事の一つというわけだな」
もう少し調べたいというシャクラと別れ、マルテラトを連れたドワ男とクレイは、カミハルムイへと無事辿り着いていた。
「でも何故、わが家の家紋がついた楽器に…」
「強い思いが込められた品はいわくつきとなる事も多い。そう気にするな」
慰められるもマルテラトの思いつめた表情に変化は見られない。
「わたし、行き詰っていたんです。表現したい音に全然近づけなくなって…何か刺激があれば、きっかけがあればって思うようになって…依頼したんです」
俯いたまま心中を吐露していく少女の手をクレイが握る。
「まあ、ほら無事だったんだからさ。気にするなって? 早く家に帰っちゃおう?」
「はい。そうですね。帰りましょう」
うんうんと優しく頷くクレイだが、顔を上げた少女の続く言葉にビックリする。
「そして父に聞きましょう! あの場所が一体なんだったのか。無関係とは思えませんわ!」
「マジか……」
護衛の仕事はもう終わり。そう思っていた時期がボクにもありました。
ドワ男は思わず天を見上げたのだった。
「わしの祖父。おまえの曽祖父の頃、レンダーシアから渡ってきた若き楽器職人がいたのだ」
マルテラトの父は娘の執拗な問いに根負けし、昔話を語りだした。
大胆な発想と極限を追求するその職人はやがて天才鬼才と評判になり、高名な音楽家達からも依頼を受けるようになっていく。
それでもなお、妥協を許さず作品に手を抜かぬ様は彼の名声をより高めた。
「だが、誰も彼の苦悩と狂気に気づいてはおらなんだ」
より新しく、より優れていて、唯一無二となる楽器を求めた男は、人の道を外れていく。
モリナラ大森林で保護動物やモンスターの密猟や惨殺事件が増加したのだ。
「それってまさか」
ドワ男の察した通りであった。レンジャー協会の調査で浮かび上がったのは楽器職人シノバス。
「秘密の工房を作り上げ、保護動物やモンスターの生皮すらを材料とする外法に手を染めたシノバスは、ついにレンジャー協会によって追い詰められ、自ら死を選んだそうだ」
「その職人の工房だったのか。あそこ」
「うむ。もっともおまえ達が足を踏み入れたのは表の工房だ。秘密工房についてはレンジャー協会が把握しているはずだが、想像以上に凄惨であったという」
ふぅと重い息を吐きマルテラトの父は、己が娘に向き直る。
「さてマルテラトよ、無事でよかったが……思いつきで行うには度が過ぎた冒険であった。しばらくおまえには謹慎を申し付けるぞ」
「うっ…わかりまし」
た。とマルテラトが言い終わる前に外が急に騒がしくなる。
「何事だ?」
窓を開けて様子を窺うと、飛び込んできたのは魔物襲来の声。
「プープップクの大群だー!! 冒険者は防衛に協力を!!」
「敵侵攻予測はレンジャー協会!! なんだってあんなところに!?」
「とにかく急げ!!!」
兵士達の声に、ドワ男とクレイは行きます!と一言告げると走り出していくのだった。
〔続く〕
※マルテラトは「まるてらと」にしたかったんですが、ひらがなだと文章に埋没してしまうのです!