自分勝手な二次創作だよ!
同じ日(2019/6/23)の日誌、1話の続きだよ!
◆◆二話 お菓子な魔女と冒険者◆◆
楽しげにお菓子を頬張る姿に安堵してシュガーは涙の後を拭ってやる。
「よかった。気持ちも晴れたみたいですね。目を覚ますまでに、ずいぶんうなされていたから心配していたのです」
だがそう言われた途端、少年ははっとしてフォークを持った手を止める。
「そうだった…ボク、また怒られたんだった」
しょんぼりとした少年の正面に座りなおすと、シュガーは顔を上げるよう少年に促し、自己紹介をする。
「わたしは、このスウィ~ツランドの魔女シュガー。あなたは偶然ここにやってきた迷子で、お菓子をとっても喜んでくれた素直ないい子です」
突然褒められて、ぽかんとする少年にシュガーは続ける。
「ここはあなたの住むところとは別の世界。せっかくだから、なんにも気にせずにお話をしていきましょう? お菓子パーティーにはおしゃべりが付き物なのですよ」
「えっと、その何をしゃべるの?」
「それじゃあ、どうして泣いていたのか? どうして怒られたのか? とか」
促されて少年は情けなく眉尻を下げる。
だけど他にどうしていいのかもわからずに、ぽつりぽつりと話し始める。
自分のご先祖様はすごい人で、多くの人に馬鹿にされながらも研鑽の旅を続け踊りの大家として成功したらしい事。その技術と舞を脈々と受け継いできたのが父であり、受け継いでいくのが自分である事。
「ご先祖様は、美しく舞うためだけに戦場すらも駆け巡って、大活躍したんだって。お父さんはそれに比べれば舞踊の修行なんて優しい物だっていっつも言うけど、ボクは全然できないし…ダメなんだ」
ひとしきり少年が語るのに耳を傾けていたシュガーは、優しく聞いてみる。
「あなたは、美しく踊りたいとは思わない?」
こくんと、小さくうなずく。
「じゃあ、何が好き? 何かあるやりたい事はある?」
ふるふると首を横に振る少年。カラフルな家具に彩られた室内に、しんと沈黙が訪れる。
「あ……」
思わず涙がたまり始めた少年の視線の先に、くるりと模様を描いたロールケーキがぽつんと一切れ。
「ここで食べたおやつはみんな好き…食べたら、幸せだったから」
涙を湛えながら笑う少年を見てシュガーは決心すると、メッセージカードにペンを走らせる。
「あなた、お名前は?」
「え… ……ボン、です」
「なるほど、では今ここにあなたをお菓子とその幸せを愛する、スウィ~ツ大好きっ子に任命します」
ふっとシュガーが息を吹きかけると、カードはふわふわと飛んで、少年の胸元にぺたりと張り付き、きらりと輝く。
「えええっ!?」
突然張り付いたそれに驚き立ち上がる少年にシュガーは歩み寄る。
「大好きなものがあるのは、すごいことなのですよ。きっとあなたのご先祖様は踊りが大好きだったのでしょう。だからとっても頑張った」
大きな体をかがめ、視線を合わせるとシュガーは少年の頭をなでる。
「だから、怒られても泣かされても、大好きなもののために頑張ればいいのです」
今までで一番優しい声、シュガーが息子ジャックに語り掛ける時と同じくらいの慈愛のこもった言葉は、少年の心に深く根付いていく。
「さあ、すっかり遅くなってしまいました。そろそろあなたを元の世界に帰しましょう」
そのまま少年の手を引いてシュガーは外に出る。
「あ、あの…そのありがとう! 魔物とか言ってごめんなさいっ!」
カミハルムイに通じるという旅の扉の前で少年は頭を下げる。
「ふふ。スウィ~ツのすばらしさ覚えておいてね? これはお土産ですよ」
小さなかピンク色のかわいい菓子袋を握らせてシュガーは、少年を送り出す。
そして…数年の時が流れた。
「少しはましになったというのに、結局、行くのか」
「師匠には悪いけど、ボクのやりたい事は踊りとは違ったから」
「ふん。もはや師でもなければ、父でもない。止める道理もないわ」
赤と白の派手な色合いにレースや金細工の飾りが施され、どこにいても目立つ衣装を身にまとい、あの日より逞しくなった少年はにっこりと笑う。
「じゃあ、ボクの噂が聞こえてくるのを楽しみにしてて! 世界にお菓子の素晴らしさを伝えるスーパースター…ううん、スウィ~トスター☆の活躍を!!」
こうしてまた一人、アストルティアに若き冒険者が誕生したのだった。
余談ではあるが、ご先祖様の話は500年の間にかなり盛られているらしいぞ!
(つづ…いたらいいな)