◆◆3話 山奥に住みて◆◆
ドワーフはプクリポと並んで手足の短い種族だ。
その足をふんぬ、はいやと動かしてスウィ~トスター☆は、斜面を登り続ける。
「ふぅ、はぁっ…」
様々な日用品が詰められた巨大な背負子の重量が、肩を痛めつけ、足腰にじわりじわりとダメージを溜めていく。
「……美少女の後ろで…息を荒くしないでほしい。ちょっと一晩同じ屋根の下で過ごしただけで…理性消失?」
抑揚の少ない声が前方、かなり高いところから届いてくる。
「目的地が山奥過ぎて途中で野宿しただけじゃないか、それぇ!」
なんとか反論するが、正直声を出すのも疲れてしかたない状況だ。
「ワッサンボンは、情緒がない…もっと、こう照れるとかしろ?」
「ボ、ボクは謎のスウィ~トスター☆だぞ♪」
大荷物をものともせず、言葉とともに笑顔&ポーズを決めるスウィ~ト。そこだけは譲れないスーパースターの矜持が垣間見える。
が、続く言葉は死にそうなバッタのジャンプ程に勢いがない。
「だからせめてスウィ~トと呼べって、いつも言ってるだろぉ~アイシスぅ~」
「気が向いたら、そうする…」
一方、名を呼ばれたアイシスの声には変化がない。
スウィ~ト以上の大荷物を背負ったオーガ女子の足取りは確かで、呼吸も大きく乱れていない。
アストルティアの種族の中でもオーガは体格に恵まれている。
頭部と肩に生えた角状の突起と、赤褐色の肌は、初めて見る者には圧迫感すら感じるという。
そのうえ彼らは、自らの肉体を鍛える伝統的文化も色濃く残しており、冒険者の中でも肉体的に優れた者が多いのだ。
「お、おのれぇ…マイペースちゃんめぇ」
声を絞り出しつつ後を追うスウィ~ト。
山道を進む冒険者二人の目的地が見えるのはまだ少し先の話であった。
二人がたどり着いたのは、廃屋に何とか手入れをしたといった程度の小さな家であった。
「ここに元飴職人のお爺さんが…本当に一人暮らし?」
首をかしげながらもスウィ~トが古びた戸板をノックする。
しばしの間を置いて聞こえてきたのは、返事ではなくげほげほと咳き込むような呻き声。
「ベツゴウさん! 悪いけど勝手に入るから!」
「緊急事態かも?」
声をかけたと同時にズバンと扉を引き開け、二人は屋内へと飛び込んだ。
「えほっ…ごほっ…乱暴な、やつらじゃのう」
そこには毛皮のベットに横たわって、何とか顔を上げた老オーガが、しかめっ面を浮かべていたのだった。
「ただの風邪でよかった? 場合によっては本当に危険だった、はず」
「そうだよ。こんな場所で一人暮らしとか、死んでてもおかしくなかったぞ」
運んできた生活物資を、適当に片づけて二人は、家主ベツゴウの傍に腰掛ける。
「とりあえず、これ食べられる?」
アイシスの手には、運んできた乾燥米を砕いて煮込んだ雑炊の椀と、それを掬った匙があった。
「お菓子作りだけじゃなくて、料理も上手いから。安心していいぞ♪」
ドワーフの短い手を借りて、半身を起こしたベツゴウは、何度か咳を繰り返し、落ち着いた間を計って匙一杯をゆっくりと飲み込む。
「ずいぶんな…世話焼きどもがおつかいに来たもんじゃ」
「訪ねて来て、ばたんきゅーしてたら、こうもなる?」
真顔で言うアイシスにベツゴウは天井を見上げて呟く。
「それも本望なんじゃよ。この辺りにはワシが生まれた貧しい集落があった。子や孫も立派に独り立ちしておる…父母の眠る故郷に身を埋めたいという、最後の我儘じゃ」
自らの終着点をどこに見出すか、若い二人には余りに遠い境地であった。
一応連載になる予定。素人の行いなので一寸先は闇だが。
アイシスは古いフレンドさんの妹という設定。姉の影響で二刀流してるパラディンさんです。
今後もソウラ関係の人とか、ちまちま出したいの。