二次創作で独自解釈あり!
1話は2019/6/23の日誌から
◆◆10話 リモニーザとシロイロ◆◆
両腕いっぱいにプクリポを抱えたアイシスは、迷うことなく離脱していく。
対して打倒されたのは最初に撃ち抜かれたブラックマンティス1体のみ。
「押し込んでやるぜ!」
魔法戦士は厄介だが、前に出て戦う者がいないバランスの悪さを見て取ってヨップキッパは、号令と共に突撃する。
「ん~。もう一歩、先まで考えないと駄目だね」
雪崩のように襲い来る集団。迫力はあるが熟練の弓使いであるミャジには塊である事は利点でもある。
「宵闇の理力よ。その心に平穏を…」
呟きと同時に放たれた矢は青白い流星となり、敵集団の鼻先で炸裂する。
衝撃がその身を打つと同時に、猛り狂った黒蟷螂達の気勢があからさまに削がれている。
弓の妙技ロストスナイプのなせる業だ。
「ミャジ△ーっ! でもボク達だって負けないぞ! やるぞざらめ。ロックシュガークロス!」
掛け声に応じてざらめから大粒の氷砂糖がきらきらと打ち上げられる。それを絡めとるように吹き荒れるバギクロスの渦が、敵集団へ突っ込んでいく。
ドッ、ベキ、ビシ、ガカッ、バキン!!
衝撃と裂傷をもたらす呪文に不釣り合いな鈍い音。ブラックマンティスの外骨格がへこみ、ひび割れ、キラキラと砕けた氷砂糖が瞬く地獄。
「おどるほうせきはその名の如く宝石を礫にするって言うけど、これ全部クリスタルだったのか」
それを暴風に巻き込んでぶつけるとは、スウィ~トスター☆の名に反して容赦がない。
「見た目にこだわって、クリスタルだけを出してもらうのは苦労しました!」
らら~!
「うん、見た目綺麗な分、余計に残虐度上がっちゃってるけど大丈夫これ!?」
自慢げな一人と一匹にツッコむミャジの目の端で、斧を杖にしてヨップキッパが立ち上がる。
「おいい! リモニーザ! いるんだろ。手伝えよ。やべえだろうがよこれ!!」
満身創痍の男の声に、赤と黒の虚空が繭を作ったかと思うと、ぱちんとはじける。
そこに立つは二人の少女だ。
「戦いは好みではありませんのに、どうしてこうなるのでしょう」
白で統一された衣装に漆黒のタイとエプロンスカートが薄紫の肌を包む少女がため息をつく。
一見するとエルフのように見えるその額には1対の角が生え、口元には牙が覗く。
「うるせえ、こうなっちまったら仕方ないだろうリモニーザ! 手を貸せよ!」
リモニーザと呼ばれた少女は、ヨップキッパを見もせずに傍らのもう一人へと声をかける。
「シロイロ。代わりに戦ってもらえるかしら?」
「大魔王様代理代行様…越権? 大丈夫?」
「うーん。大丈夫、範囲内…(のはず)」
エルフと呼ぶには余りにも色の白い肌をしたもう一人の少女が、真顔のまま尋ねるのをリモニーザがはぐらかすと、シロイロはすらりと刃を抜く。
「あの子は角がないし本当にエルフだったりするかな?」
「いやいや、魔族と一緒に出てきて、大魔王様がどうのこうの言っちゃってるし」
「やっぱり、そうだよね! あーもーアイシス早くぅ!」
泣き言を叫ぶスウィ~トと同時にシロイロが走る。
リモニーザの方は取り出した極彩色のクッキーをヨップキッパに手渡している。
「そういうのってパワーアップフラグって、私知ってるから!」
させじとミャジの放つ矢が空中で突然叩き切られ、シロイロと対峙しようと突っ込んだスウィ~トが仰天する。
「そんなのありなの!?」
シロイロが抜き放った細身の長剣は、中心を鋼線によって繋がれた幾つもの刃へと変じる。
もはやそれは何倍もの射程を誇る鞭と呼べるものだ。
矢を切り払った勢いで迫る一撃を身をかがめて避け、肉薄するしかないと覚悟を決めて加速。
手首を返し今度は上から迫る連刃を盾で受けるが、たわみ曲がる刃が背中を浅く切り裂く痛みに顔をしかめる。
「自分で食う事になるとは思わなかったが悪くねえなあ。今度は見えるぞ!」
クッキーをかじりながら目を血走らせたヨップキッパが、二射、三射と続くミャジの矢を斧で捌く。
(とはいえ防戦一方、このまま縫い留められる。けど、スウィ~トの方がこのままじゃまずい)
「ざらめ! 回り込んで! 前後に振り回せば余裕が作れるから! ピオリム(反射加速広域呪文)」
さらに四射目、五射目と速度を上げながら、支援呪文を瞬時に構築開放する。
らっ!!
ミャジの意図を理解したのかざしざしと跳ね進むざらめの瞳に、強い意志の光が灯る。
「ん? 女性の方が違うが、派手な出で立ちのドワーフ少年とスウィートバッグ…おや?」
だが、そのざらめの姿にリモニーザの表情は真剣みを帯びる。
「マッシュウが取り逃がした者達。これは師匠の導きなのか…」