DQXの二次創作小説
独自解釈等が含まれます注意
◆◆15話 九死に一生◆◆
「…さんが……偶然…助かった」
「こちらこそ、ミャジ様にはいつも……」
「…くんには、ちゃんと伝えるから…しばらく様子を」
「はい。畏まりました。蜂蜜…遅くなると…」
どこか遠くで声が聞こえる。
身体が熱い。なのに芯が凍てつきそう。
手だけがちょうど温かい。知っている大きな手。だけど何故アイシスが手を?
まとまらない。
ああ、せめて目を開けなければ。
ダメだ。まだダメだ。
意識は再び闇に転じた。
丸二日が経った。
突然ぱちりと目を開けてスウィ~トは体を起こす。
「どこだっけ?」
見知らぬ家。小さく可愛らしい家具が並んでいることからプクリポの住む家なのだろう。
「こちらはトロ・リリプ村のご厚意でお借りしている空き家です。痛みはございませんかスウィ~トスター☆様」
順に屋内を見回すと一人のメイドが深々と頭を下げる姿が瞳に映る。
「え、あ。うん」
よくわからぬまま素直に頷くとその姿をしげしげと観察する。
お金持ちや実力ある冒険者が雇い入れる世界宿屋協会のプライベートコンシェルジュ。
一部愛好家がいるとの噂がある協会支給のメイド服は何度か見たことがあった。
皺もなく着こなした人間の女性の顔立ちは、凛々しさとお茶目さが同居したような絶妙なものだ。
桃色のストレートヘアは、ほのかなライラックの香水と合わせて春を思わせる。
「だれだっけ?」
何処を誰に変えただけの質問を繰り出すと女性は微笑み、スカートを摘まんで今度は華やかに礼をする。
「お初にお目に掛かります。わたくし、ロスウィード様のプライベートコンシェルジュを務めさせていただいております、世界宿屋協会所属のクレアと申します。こちらに来たのは偶然ですが、ミャジ様にあなた様の事を頼まれました」
トロ・リリプ…ミャジ…。
「「あーーーー!!」」
全てを思い出して叫ぶドワ男。
仲間の覚醒に思わず叫ぶオガ女。
重なる二人の声は近隣の村人が何事かと飛び出してくるほどだった。
「プラコンって現地にまで仕入れに来るんだ。ほとんど冒険者だね」
「いえいえ、スウィ~ト様。稀なケースでございますよ?」
快気祝いにと差し入れられた特性蜂蜜湯をすすりながら、三人は事情を語る。
「ロスウィードさんはミャジさんの上司のお一人。縁がつながった…。ワッサンボンの命も…だからつながった」
「いえいえ、アイシス様が精魂尽き果てるまで回復呪文を使っていたおかげかと。占い師のカードは運命を切り開こうとする者に微笑んでくれるものです」
ミャジもアイシスも直前に迫った死神の鎌を打ち砕く術を持っていなかった。
蘇生とも呼ばれる死すべきでない命をつなぐ術と技は、本当に使いこなせるものは少ない。
幸運にもクレアはその一手を持つカードの使い手だったのだ。
「本当に…死にかけてたのか…」
呟くスウィ~トに、女性二人も沈黙する。
「なんだか……」
実感が恐怖となったのかぶるぶると拳を震わせると、スウィ~トはだんっと立ち上がる。
定位置の頭の上に登っていたざらめが、驚いて飛び降りるほどの勢いで。
「腹が立ってきた!!」
「ミャジさん…先に帰ったのはいつまでも犯人を村に置いとけないから…だよ?」
「そこじゃない!!」
いつもの調子であえて外したアイシスの指摘に抗議して捲し立てる。
「大切な人の形見だとかしおらしいこと言ってたんだよ!? そりゃ、こう同情とか共感とかするでしょ! するよね!?」
「義理人情ですねぇ」
縁側で茶を飲むように、甘みの蕩けた湯を啜るクレアの同意はちょっとおざなりになりつつある。
「そこにいきなり『おまえ如きに私の心がわかるかバーカ!』ですよ? しかもそのまま攻撃してくるとかぁっ!」
しかしそれには気づかず勢いづくドワ男の主張。
「いや、バカとは…言ってない」
第二の指摘にも怯むことなく言葉は続く。
「ドードーどりの時といい、ここまでやられたらぎゃふんと言わせてやらないと気が済まない!」
もはや瞳にめらめらと炎を点す勢いだ。
「ふむ。こてんぱんに叩きのめすのでしょうか?」
「実力的には大分厳しそう」
顔を見合わせる女性陣に、ちちちっと口元で指を振るスウィ~ト。
「スウィ~トスター☆はそういう方向でやり合わないよ♪」
「では、どのように?」
好奇心が湧いたのかクレアが尋ねる。
「こっちにもレシピがある。謎を解くか、出し抜いて相手の分を貰っちゃって…ボク達があのレシピの品をつくっちゃうんだよ!」
特大のいたずらを思いついた少年の顔で、スウィ~トが笑うと、ざらめが嬉しそうに周りを飛び跳ねるのだった。