独自解釈等有り。注意!
◆◆20話 新たな病人◆◆
夜風と遊ぶ黒の翼がひらりくるり。
月光に映える白き手足がゆるりふわり。
春薫る笛の音が綿雪に染み渡る。
レシピから魔力をほどき、守りの力にする月夜の儀式はまさにおとぎ話の降臨。
かいりの看護に残るため見守っていたマイユから感嘆の声が漏れるほどに。
そんな夜が明けて、スウィ~ト達が足を踏み入れたのはラギ雪原だった。
「う~。アロルドが来てくれててよかったあ」
先頭を行くアロルドは雪に馴染みがあってか、確実に歩を進めていく。
さらにはその分厚い肉体が、風雪を受け止め、後ろのぱにゃにゃん達妖精を守っている。
「そうか。鍛えておいてよかったよ」
振り返りもせず朗らかに言う姿に、男の度量が現れている。
「寒さこそ力のインフル炎ザードはここで力を蓄えて封印を完全に解くつもりなんだわ」
「すごく寒い~。鼻の頭が赤くなっちゃうかも…って、あれ?」
ベラとマユミが手袋で頬を抑えながら周辺を観察していると、目に留まるこんもりとした雪山。
「かまくら?」
「まさか炎ザードが…作ったりする?」
マユミが示す方向を眺め、スウィ~トとアイシスが問う。
「それはないない」
「村の者でもないと思うが…無茶な修行に来た冒険者の類か?」
即否定するベラと首をひねるアロルド。
「じゃあ、確かめてみればいい事だよ♪ 遭難者ならチョコを配ってあげなきゃね!」
銀紙で包まれたチョコを取り出して、スウィ~トはざくざくと雪をかき分け進む。
「もー。ちょっとは警戒しなさいよ~」
かいりにもこういう事ばっかり言ってる気がするなあと思いながら、ぱにゃにゃんが追いかける。
「おーい! だれかいるのかー?」
かまくらの後ろ側から近づいたスウィ~トが、ぐるりと回りこんで見えてきた入り口に声をかける。
げほぐほっこげっえほーっ!!
返って来たのは盛大な咳。
どうやらインフル炎ザードの病を受けた者のようだ。
「おいっ! 大丈夫か? 一人なのか?」
慌てて足を速めて、追いついたぱにゃにゃんと覗き込む。
「否定。二名いる。一名の生命力が著しく低下。帰還を提案中」
答えたのはエルフの少女。だがスウィ~トは素っ頓狂な悲鳴にも似た叫びでその名を口にする。
「お、おまっ、あの時のシロイロ!?!」
「え、なに魔族と一緒だったとかいう子? って、えーっ! 奥で寝てるのも魔物!?」
右見て、左見て、再度右を見てぱにゃにゃんも驚きの連続である。
「お、おまえら、ここであったが百年目…今度こそレシピをっ げほげほごほんっ」
病人ならぬ病魔物は、かつて戦ったドードーどりのマッシュウだ。
「これは…戦えなさそう」
まともに立ち上がれなくなっているその姿に、追いついてきたアイシスがぽつりと漏らす。
「っ! このマッシュウ様がこれくら、ごほごほっ」
「そういえばインフル炎ザードの病って…鳥にも影響するって言ってた気がするけど…魔物も罹るんだ」
ベラが何だかかわいそうという目で見ると、アロルドやマユミまで同情的な視線を送る。
「というか、シロイロは攻撃してこないのか?」
先ほどから三角座りのまま微動だにしない相手に、スウィ~トが尋ねると彼女は頷く。
「主代行代理、妖精の国の影響を受けたらしき魔物の捕獲を命令。シロイロはそのためにいる」
「融通というか、自己判断が希薄なんだな…まあ、じゃあいいか」
なんとなく毒気を抜かれたスウィ~トは、先ほどのチョコレートを放り渡す。
「?」
「魔物の口に合うか知らないけど、イケるならそれ食べてさっさと帰れー。病の原因はボク達がもう一回封じるから」
「それはシロイロ達が探している魔物か?」
「そーっ」
「ぜんぜん! 無関係よ♪」
肯定しかけたマユミの口をがっつり塞いでぱにゃにゃんが笑顔で答える。
「そうか…マッシュウ。再度帰還を提案する」
「いや、ごほっ、今の流れ絶対に狙いが一緒…」
息も絶え絶えに抗議しようとするマッシュウを、ばさりと広げた防寒マントでアイシスがぐるぐる巻きにする。
「これも情け…暖かくして?」
「むー!」
「よし。じゃあ、ボクらは行くから! あ、そうだリモに言っといてくれるかな?」
ついでだというようにスウィ~トが告げる。
「そっちより先に、こっちがあのレシピ完成させるから、泣いて悔しがってねーって♪」
我ながら意地悪だと思うが、これくらいの事は言ってもばちは当たらないはずだ。
あっちは命を狙ったけれど、こっちはプライドで勘弁してやるんだからなっと。
「わかった。伝える」
もっともシロイロにはその機微は伝わらないらしい。
スウィ~ト達は奇妙な邂逅を経て、再び捜索へと戻るのであった。