DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈、設定等有りますので注意。
◆◆25話 二人はパティシエ◆◆
「ぬくくく、これでまた野望に一歩近づいたなぁ、おい!」
目つきの悪い大男が、猛禽類のような鋭い視線をのどかな景色に向ける。
「ああ…美しい。ここにどれだけの価値ある素材があるのか…。できればシロイロにも見せてやりたかった。そして…荷物運びも手伝ってほしかったっ!」
呼びかけられたのは痩せこけた枯れ枝のような男。妙にテンションの高い声で慟哭する。
珍妙な二人組の出現に気づいた妖精たちが、興味津々に、または恐る恐る様子をうかがう。
「おうおう! お邪魔させてもらったぞ。我はポルリオン。よろしくな妖精達!!」
太い両腕をぶんぶんと振ってアピールする人間の男。
「えへへへ。お初にお目にかかるぅ。いや~あオレは悪い魔族じゃあないから。お菓子作りの研究中でね。珍しい素材を求めて来たんだぁ」
ぺこぺこと頭を下げる男は、発言通りオーガのそれとは違う角が額から伸びていた。
「おいおい。名を名乗らんと失礼だぞ貴様!」
「げふっ。そうだったぁ。バ―ウェンだよ~」
ばしんと背中を叩かれて、魔族の男は咳き込みながら続ける。
その様はなんだか図体だけが大きくなった男の子たちを思わせて、妖精たちの不安はどこ吹く風となった。
和気あいあいと二人を歓迎した妖精たちに、ポルリオンとバーウェンも冒険譚を語って聞かせた。
各々の世界で歴史に残るパティシエになる。
同じ道を志したがゆえに交差した二人の運命が、敵対から共感へと変わっていった話。
挑戦した数々の菓子の話。人間の世界の話。魔界の話。
ドキドキとわくわくでその日はあっという間に過ぎ去ったという。
「魔族と一緒に来たとは思えないノリ」
昔語りにアイシスが目を丸くする。
聞けば自力で妖精の世界に“扉”を明けてやって来たほどの者達の登場としてはさもありなんだ。
「ええ、二人は純粋でまっすぐな者達でした。そして並々ならぬ熱意を秘めていました」
ポワンは頬に手を当て、小さくため息を吐く。
「ですが…それゆえに配慮や加減、遠慮というものがなかったのです」
ほんの数日後にはポワンの元に妖精の国の住人が詰めかける事になった。
「ポワンさま~! あいつら、あたしの家のツボというツボ全部引っ掻き回していきました~」
「わしも腕の骨を借りていかれて難儀しましたわい!」
「タンス! タンスも!! 隠しおやつの場所がおかげでバレました。うわーん」
「一人一つの限定と言ったのですが、押し切られて買い占められちゃいました!」
「ポ、ポワン様~! 今度はザイルの所の近くを掘り返し始めたそうです~!!」
「うわ…『勇者とメダルの異聞禄』並みの問答無用家宅捜索」
ポワンが指折り数える陳情にアイシスも、とんでも勇者観で有名な一冊を思い出して笑顔が引きつる。
「なんとというか…スライムの姿になってもそこまで傍若無人に振舞えるとは…すごいな」
絶句しかけた自分を立て直して口を開いたスウィ~トに、ポワンはぽつりと漏らす。
「いえ、この事件を境にアストルティアからのお客様に変化の魔法がかかるように……」
「なんかもう、ごめんなさいー!!」
バブルスライムの身体を無理やり折り曲げてスウィ~トが、全身全霊で謝罪する。
(アストルティアの先人は何してくれてるの! そのうえリモの師匠も同じノリなのかよ!!)
心の底から想像上のマッチョ&ガリにツッコミを入れまくる。
「こほん。話がそれましたね。さすがに放置しておけず、二人の説得に向かいました」
「おお! ポワン様か。すまんな、泥だらけで。ぬははは」
「妖精世界の…地下生菌をいま探してたんだぁ。トリュフとかが有名なんだよ。いいのがあるといいなぁ」
二人は悪びれもせず、笑顔を向けてきます。
「あなた方は悪人ではありませんが、周りの人の事も考えてあげなければいけませんよ」
到底いい大人に向けるべきとは思えない言葉と共に、道理を説いて聞かせました。
すると彼らは目を輝かせて言うのです。
「ポワン様。大事の前の小事ですよぉ。オレは誰かの命を奪ったりしないし、危険なものをつくったりもしてないでしょ?」
「そうですぞ! それに我らが考えた究極のレシピ! このドラゴンエッグを使った至宝のウ・ア・ラ・ネージュと極限トライフル!、これを食せばだれもが至福を感じられる。もう善は急げ! 時間が惜しい! 特に人間は寿命が短いですから! ぬはははっ」
びっしりと書き込まれた魔法のレシピを取り出して、夢と希望をめらめらと燃やしてた二つの笑顔。
ポワンは言葉だけでは足りないのだと、この時考えたのでした。