DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
設定や人物の言動など個人の妄動ですよ~。
◆◆40話 怪盗人生◆◆
サマベルが見たのなら…物理的に何かが潜んでるって事よね。
あたりをつけたラズは腹に一物抱えた敵を挑発する。
「頑なに拒否られると奪いたくなるのは怪盗の性かしら? どんどん本気でレンダーシアに行きたくなっちゃう♪」
蠱惑的な声で誘うと敵は振り向きながらドルクマを連発する。
数珠つなぎのように点から線へと弧を描き連なる魔法攻撃を、ヒャドとメラの弾幕で対消滅させながらラズは揺らぎのない直線にて肉薄する。
もちろん背を見せた側であるスウィ~ト達も同時に距離を詰める。
念のためサマベルをかばうのはざらめの役目だ。
前後から迫る怪盗団に敵は両手を掲げるとプラズマが瞬く。
紫電が降り注ぎ衣服が焦げる匂いが、金属鎧でスパークする音が戦場に広がる。
!?
テクニカルに防御を駆使してきたラズが攻撃をその身で受けながら、自分の足元に手を伸ばした行動に驚愕する一瞬の隙に、呪文が発動する。
「驚いた? じゃあ、ひっくり返ってよ、ねっ!」
苦痛に耐えながら構築した魔力を爆裂呪文へと解き放ち、ラズは床板ごと敵を跳ね上げる。
呪文の衝撃を纏う闇で相殺しても、物理現象として肉体が転倒する結果に変更はない。
「アイシス、そのぷよぷよお腹押しちゃって!」
「ん、分かった」
仰向けに倒れた男にオーガ女子(鎧込み)のフライングボディアタックが炸裂する。
瞬間の斬撃や呪文威力を霧散しながら逸らしてきた闇の覆いが、単純な重量によって変形し肉体を圧迫する。
ぐぼごぼっと口の端からどろりとした黒いものが垂れるのを見てスウィ~トも助走開始!
「こざがしぃ! 通り抜げれば──なッ」
「閉鎖空間跳躍孔呪…リレミト…」
言葉を遮り突然ラズは場違いに思える呪文を解き放つ。
「空間に作用するって繊細な作業よね? 同時に行えば…干渉しあってご破算ってのは当然の結果かな♪」
「ぐおぉ、おまぇぇ」
床を通り抜ける目論見を崩され怨嗟の声が上がる中、駆ける足音が大きく響く。
「アイシス、いくよ!」
「ん! 限定加重…ズッシート」
敵を抑え込む仲間の背にドワーフ男子のずんぐりとした肉体と、魔法による重量増加が一度に加わり、水難から救助された蘇生者の戯画の如く、中年男の口からどばっと真っ黒でぐちゃぐちゃの粘液があふれ出す。
毒素をもった粘液状の身体を持つバブルスライムを思わせるそれは、闇の瘴気を泡立てながら黄色く濁った眼で怪盗達を睨みつける。
「おまえ達は…ことごとくこのヘルスラタール様が殺しつくす。人々をレンダーシアから遠ざける噂は、新たに見出すとしよう」
口らしき穴をうごめかして宣言すると縦板を滑る水流の如く、その身が物理法則に反して流れる。
「ばあちゃん!?」
らっ。らららぁー!!
疾風迅雷の奇襲。その先でラズの期待に自分も応えるのだとばかりにざらめが叫ぶ。
風に舞うシートを縫い付ける様に、キラキラと輝く氷砂糖ならぬクリスタルがヘルスラタールに撃ち込まれ、その動きを押しとどめる。
「うげ、まだ動くのかよ」
それでもあちこちを引き千切るようにしながら進もうとするヘルスラタールに追いついて、スウィ~トとアイシスは頷き合う。
「下手に斬ったりするくらいなら…いっそ!」
「こうして…やる」
二人は意を決してヘルスラタールの端っこをむんずと掴む。重たい冬の掛け布団をそうするかのように。
「せぇ」「…のっ!」
怖気が走るのも構わず勢いをつけて、その下に寝坊助の鈍感幼馴染男子でもいるかのようにヘルスラタールを捲り上げ、一気に後方…つまりラズに向けて投げ捨てる。
「な、なんだっと!?!?」
帯電して直接電撃を流し込もうとしたヘルスラタールが、あまりの突飛な行動に虚を突かれる。
「スウィ~ト。あれやるわよ」
「マジで!? ええい、やってみるしかないか♪」
ラズの構築した短縮詠唱版マホカンタがヘルスラタールの落下と同時に上下に魔力の鏡面を作り上げる。
「出でよ氷華、マヒャデドス!!」
「ボクの好みは氷菓だけどね♪ バギ~」
その中間で炸裂される極大氷結呪文は、乱反射を繰り返しバギの旋風に削られ、アザミの花の如き氷塊を作り出す。
「おみごと…」
「相変わらず派手な演出が好きじゃの」
アイシスから賞賛と拍手が。サマベルからお馴染みである憎まれ口がこぼれる。
その心地よさに身を委ねラズは心底満足そうに笑って言うのだ。
ただの悪党をやる人生なんて、ちっとも!全然!これっぽっちも!!面白くないからね♪──と。