DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
◆◆45話 怪我人S◆◆
「ゆるるんオーガにしてはちっちゃいねー。これは伝統的なオーガ衣装の野性味より、洗練されたレンダーシアデザインとかぁ、かなり着こなせちゃうんじゃなぁい♪」
「あ、ありがとう、かな?」
旧知の仲と思わせるほど距離感を詰めるイズナ。
しかも服装の話題となると勝手が掴めずユルールの視線がヨナやシア(ディオニシア)に助けを求める。
「冒険中は結構ワイルドが似あう精悍さもあるんだけどね」
「ユルール様は、か、かわいい系もお似合いなのです」
結果は割と藪蛇だった。
女子はこういう話が好物っぽい。
「素材がいいってわくわくよねぇ。ああ、色々着せ変えちゃいたい♪」
モデルとしてだけではなく戦士としてもってところね。
享楽主義的な表面とは別の場所で、魔族の冷酷さで観察眼を発揮する。
勇者なのではと言われた男は、噂以上の力を秘めているようにイズナの透き通った青い瞳に映っている。
(それに何だかぁ警戒されてる素振りも感じちゃうなぁ)
「ん、んっ…イズナ、少しは自重して」
リモニーザも同じ違和感を感じているのか、咳払いして空気の入れ替えを図ってくる。
「あー、自己紹介の途中だもんね。ごめんごめん」
「連れが失礼を。私がリーモニンです。よろしく」
言葉少なに頭を下げる姿に応じて、ヨナ達も軽い自己紹介を済ませるとダドリーがまずは医務室へ赴くように切り出す。
飛び出したマグロに驚き、階段を転げ落ちて怪我をした乗客と話が出来るよう取り計らってあるとの事。
「お邪魔します」
控えめにノックしてユルールを先頭に、医務室へと入室していく。
(何をやっているんだ私は…)
気が乗らないのがそのまま行動に出ているのか、最後尾からついていくリモ(リーモニンことリモニーザ)が溜息を何とか呑み込むと、ベッドを仕切った衝立の向こうから怪我人とは思えぬ元気な声が聞こえてくる。
「いやー、もう全然平気ですよ! 骨折は回復呪文使ったし、痛みも引いてきたんで。不意打ちでびっくりしちゃったけど、これでも修羅場も潜ってる冒険者ですから! 何だったらもう自分で解決しに行こうかなーってくらいで」
「それは言い過ぎ…メインダイニングのピーチパイ・ア・ラモードの方が、重要そうだった」
「それはそれ、これはこれだよ!」
連れと言い合っている様子にリモは嫌な予感を抱く。
慎重にそろりと歩を進め、ギリギリの角度からベッドの主を盗み見る。
緑色の肌、大きな耳、真っ赤な瞳、ずんぐりとした体格、ド派手な衣装。
極めつけはベッド上でゆらゆら揺れるピンクの生きた菓子袋。
(偉そうにライバルっぽい事を宣言した男が、マグロの幽霊に驚いて怪我してるんじゃないわよ。バカなの、間抜けなの、というかなんで鉢合わせちゃうのよっ)
身をひるがえし衝立の陰で、叫びだしそうになる感情の激流にぷるぷると必死で耐える。
「ほー。まさかスウィ~トスター☆とこんな所で合えるとは! おまえさんのレビュー、女子受けするやつも結構あるから俺っち読ませてもらってるんだぜい!」
そして確定に確定を重ねるアマセのお気楽な言葉が、リモの後頭部を殴りつけるような衝撃を以って耳朶を打つ。
(うん、もう逃げよう。帰ろう! シロイロと一緒に船室に引きこもろう!)
強く決意するリモの手をそっと、しかし力強く握るのは誰あろう…いや言うまでもなくイズナである。
「で、アタシ達が、イズナとリモ…っ」
「リーモニンよ。初めまして」
アッという間もなく引っ張り出されて、仕方なくイズナの口元を塞いで偽名を名乗る。
エルフの姿と普段とは違う服装。目元まで隠しているこの変装を信じて、初対面の冒険者を貫くしかないとリモは気合を入れる。
(というかイズナは神経が太すぎるのよ。自分だって危ないのに、こういうの楽しめるなんて…)
薄衣の向こうで自分を睨む友人の瞳に、イズナはにっこりと笑いかける。
気になるものは知れるだけ知って、体験できるだけ体験してしまう方がいい。
だからわざわざアストルティアにまで来ちゃってるのよアタシ達は!そんな矜持にも似た強い光がその瞳に宿っている。
だからなのかその瞳に押されるようにリモも、今だけは鬱陶しくて憎らしい冒険者のように振舞う。
「例のマグロについて、なにか気づいた事はある?」
「ん…。うむ! よくぞ聞いてくれたね! ボクはあの一瞬でも見逃さなかった! その口に釣り糸がつながっていたのをね!」
怪訝な顔をしていたスウィ~トが一転、どや顔になるが特に驚きは沸き上がらない。
「やはり探すべきは釣り人のようですね」
「同意見です。ではそのように」
もちろんシアとリモも見逃していなかったのだ。