DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈等有り!ご注意を!
◆◆50話 夜話◆◆
「片付けよし。清掃よーし。本日もお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でしたー」」」
『お…つか…れーさま』
日が落ちてアマセが締めの挨拶を告げると、三日目にして幽霊までもが反応する。
「もう少し話せたら、名前とかも聞けるかもだねぇ」
「イズナもう、勝手にゆーさんって呼んでるけどもねぇ。また明日~♪」
ユルールの隣で幽霊に手を振って退室するイズナを先頭に、一人二人と元倉庫を後にしていく。
ただリーモニンだけが幽霊の姿を見つめたままだ。
「どうかしたの?」
「とくには…気が向いたので、もう少しだけ見ていこうかと」
また霊体クッキングが開始されいるが、この三日間に見慣れており特段変わった様子はない。
「ふーん」
納得したのかしないのかスウィ~トは壁際に寄せた椅子を二つ引きづって来る。
「何のつもりです?」
「自分も見てようかなって。こう手つきにしても眼差しにしても半端じゃないよねぇ幽霊さん。本気が宿ってる」
「あなたと話す気分ではないのですが?」
並べた椅子の片方にどっかと座ってしまった男をじろりと睨むが、まるでこちらを見ておらず気づくそぶりもない。
かといって立ち去るのもなんとなく負けた気がして、リモも椅子へと腰掛ける。
「まあ、本気なのでしょう。恨みつらみではなくこんな目的で幽霊になるくらいですから…」
自らが使役するコープスフライは怨念によって宿縁を括り付けたものだ。
魔界で村々を襲いながら権勢を保った首狩りの一族として、現世にしがみつく霊とは例外なく怨恨の産物であった。
「随分努力したんだろうなぁ。生前に会ってみたかった」
「工夫や技術はまだまだかとも思いますが…」
「厳しいなあ…やっぱり研鑽に使える時間の差が魔族とじゃ圧倒的に違うから?」
「かけた時間だけでどうにかなると考えるのは浅はかでは?」
「そっかー。リモは才能にも恵まれてたり?」
「……そのまま会話を続けるその態度が、生意気で腹立たしいわ」
まるで変わった様子を見せないドワーフの横顔を睨みつけてやる。
この場で殺してしまおうかという本能を押さえつける間も、スウィ~トは幽霊を見たままだ。
「いつ気づいたのでしょう?」
「ボクやざらめの姿を追ってるであろう首の動き。調理内容の検討に集中してる時の口調と声。初日の夜に魔族かもと助言があった事。昨日の夕方のクッキーの時に持ち出してきた蜂蜜がトロ・リリプ村のやつだったのは、隠す気ないのかなとちょっと思ったり♪」
指折り数えながらすらすらと述べられて、視線を隠すベールの下で悔し涙を滲ませる。
確かにいつの間にか油断していた!
思いのほかマグロスウィーツの探求が興味深くてあれこれと真剣になっていたのだ。
「それでどうするおつもり? 二人だけの時に口火を切ったからには意図があるのでしょう」
「うーん、微妙? ただまあ戦いにならないだろうなって事は計算してる。ユルール達をはじめ多勢に無勢でしょ」
「それは言うまでもない事。けれど……あなたのそのぬるい態度は何なのですっ」
ぐぎっと横幅の広いドワーフの顔を両手で挟んでこちらに向かせると、予想外だったのかぐえっとガマの如き呻きを漏らす。
「い、いてぇ~」
捻った勢いが強すぎたのかスウィ~トは涙目。思わずリモの留飲もちょっぴり下がる。
「ぬるいのはまあ、そういう生き方だからってのもあるけど、キミ今回の事結構真剣だったじゃないか。だからまあ、スウィーツ仲間意識っぽいのが、ねぇ?」
「気持ち悪い。何なのその慣れ合い思考は」
「ぐっ。じゃあそっちは何なんだよ。アストルティアの民の幽霊の心残りにご執心なのは…」
「正体を隠すために仕方なくやっていたことです」
「それは絶対に嘘だねっ!」
顔を掴まれたままのドワーフは唾を飛ばしそうな勢いで言い切った。
距離の近さに気づいて慌てて手を放し、椅子ごとがたんと後ずさるリモ。
「あっちこっちを食べ歩いて、たくさんのパティシエにも料理人に出会った。アイシスだって結構な腕をしてる。そういう人々が調理に向かい合う時、誤魔化しは消えてなくなる。この数日リモもそうだった。魔族はそうじゃないとは言わせない程に、だよ!」
「か、菓子を作るのに手を抜かないのは私のプライドの問題だ。正体を隠すためにというのと両立するぞ」
「ボクが気付くほどにボロ出してたじゃないか! 主目的はマグロスウィーツになってた!」
「しつこい! 異種族の、しかも食うだけの男に私の心など分かるはずはない」
気づけばお互いがお互いに詰め寄って睨み合う。
『……』
そしていつの間にか手を止めた幽霊が、二人の様子を見つめていた。