DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈など有りますので公式との齟齬もあります。
大丈夫な方は読んでみてね!
◆◆53話 四日目◆◆
グランドタイタス号の甲板では数十本の釣りざおが海面に糸を垂らしている。
サングラスの厳ついオーガ男性が、ポニーテールの快活な少女が、ワイルドなプクリポが、香水薫る紳士が…老いも若きも男も女も、マグロを狙う。
中には発破漁や素潜りでの捕獲は許可されないのかなど討論する者もいて、その熱気は凄まじい。
「うおおーっと! これはでかい! 測るまでもなく新記録間違いなし! ヨナ選手の剛腕がマグロを天高く釣り上げたー!!」
さらには勝手に実況解説席を設けているやつまでいる始末だ。
「まったく…剛腕ってなんだい」
「あははー。ヒートアップしちゃってるみたいだからねえ」
「腕の筋力だけで釣り上げるわけじゃないんだよ」
あーそっちの不満だったかぁとユルールが頬を掻く。
連日二人が競うようにマグロを釣っているのに触発されて、お祭り好きの冒険者がじっとしているはずもない。
おかげでスウィーツ材料の供給量はうなぎ上りであった。マグロなのに。
「アマっちー303号室のお客が質のいい砂糖持ってるってー!」
「イズっち! 悪いけどそっち頼めるかー! こっちはまずコック長の所いかないと」
「もー、イズナを扱き使うとかあくにーん♪ ま、任されてあげちゃおっかな」
当然一部の材料供給が突出すれば、他の必要量も増大する。
ゆえにアマセとイズナは船内を駆けずり回る。
「あ、イズナさ~ん。ドライトマトとかは使いそうですぅ~?」
おっとりとした女性の声。
「エゼソルトに余裕があるぞなもし」
素顔の見えない怪しい男の声。
当然、二人の顔と名前は知られてゆき、一部ではすっかり有名人である。
「おっけ~♪ 調理班に聞いとくねぇ」
そんな声かけに対して、にししと笑顔で答えながら、今日も退屈しないで済みそうだとイズナは手を振るのだった。
「あ、シロイロ。小麦はそっちに置いておいて」
「了解」
一方幽霊の部屋では、次々と新作が生み出されていく。
リモは開き直ったのか雑用係に顔の割れているシロイロを参加させて、アイシスと共に完全に調理係に没頭している。
『そうだ。一目でわかる形か。一口目の抵抗感を無くすためのシンプルな形かも悩んでいた』
「一目でですか?」
『マグロの頭部を模して…餡を詰めて……』
口数が増え、意思疎通が明確になり始めた幽霊からはシアが仔細を聞き出していく。
「餡の中のマグロ。食感も塩味もバランスよくなってる! 作品ごとに微調整する時の基本はこれでイケそうだよ! こっちのクッキーもマグロの風味がちゃんと残ってるし、焼きの精度も上がって来たね」
びっしりと書き込まれた幾枚ものスウィ~トのメモ。それを眺めてアイシスとリモが意見を交わす。
昨夜の出来事を聞かされたアイシスも今はただただ菓子作りに集中している。
船内の人々をも巻き込んだ、奇妙な一体感はもはや一つのイベントだった。
そうして慌ただしく夜も更けた頃。スウィ~トスター☆の眼前には二つのスウィーツが並べられる。
「マグロの身をそぼろにして閉じ込めた焼き菓子…見た目も普通、食べやすい」
手ごろな大きさの焼き菓子は確かに慣れ親しんだ形で、アイシスの言う通り容易に食欲を刺激する。
「私としてはこちらだわ。魚の頭部を模したカステラ生地に、ブツ切りマグロ入り餡が封入されている。見た目も味もしっかりと主張を通してある」
すっかり自信に満ち溢れた顔のリモが言うだけあって、マグロの頭部が再現されたその形は、彼女が凝り性であることをうかがわせる。
幾多の試作の中から選び抜かれ、調整を重ねられた二品。
幽霊の抱き続けた夢に続く数多の欠片の形。
「満足のいくものになっているといいね」
「心残りが溶けて消える…それだけのものに辿り着けていればと願います」
ユルールとシアが静かに見つめる。
「駆けまわってくれた二人の努力、きっと実らせてくれるさ」
「普段は厳しいけど、そういう所はちゃんと見ててくれるところ好きだぜヨナっぺ」
「まあ、褒められるだけの働きはしたよねぇ、ほんとぉ」
微妙に疲労を滲ませるヨナ、アマセ、イズミも固唾を飲んでいる。
わいわいがやがや。
いつの間にやら、部屋の外にも見物人が集まっている中で、スウィ~トスター☆は席につく。
「いざ。実食!!!」